〈選挙結果の読み方〉田中優子
本は生きるために読む
もし当選してしまったら、どうするつもりだったのだろうか。その答えは「石丸構文」を使って作られたAI(人工知能)「市長に質問メーカー」で分かる。質問者は「記者」として登場する。私は若者支援と介護離職問題を質問してみた。すると、記者が質問するたびにAI市長は逆に記者に質問し返し、記者が答える。つまり石丸構文なら、都知事になっても何も考えず何も答えなくてよい。 今後も人々が本も新聞も読まず、テレビではお笑いとグルメ番組を見て、インターネットで気に入る言葉のみを拾うとしたら、改憲だろうと戦争だろうと政府の思うままに突き進むことができる。それらをいち早く実現する方法を、石丸氏は示した。政府はむろん大歓迎だろう。 そこで冒頭に書いた教育内容の見直しだ。小学校で憲法を覚え、戦争の歴史と、歴代の政治政策と、投票の意味を知る。中学校と高校では、実際に存在する日本と世界の社会問題を使って、議論をする。そのために多くの本を読み込み、その意図を理解し、自分の言葉で語り、書く。 しかし、検定教科書で縛られている教育現場でこの改革は実現できるだろうか。学校ができないのであれば、多くの私塾が必要となる。それでも良い。自由な発想のためには、個々の人が自分で言葉をつかみ表現することが必須なのだ。本はそのために読む。教養なんぞのためではなく、生きるために、読むものなのである。
田中優子・『週刊金曜日』編集委員