過去最高件数を更新した「M&A」の謎 そもそも何する? どう儲ける? 悪徳業者は? 業界団体トップにすべて聞いた
M&A増加の背景にも少子高齢化の問題が
背景には、日本の抱える少子高齢化の問題があるようだ。 「人手不足を原因とする企業の倒産はここ数年、増加の一途を辿っています。会社の業績は悪くなくても、後継者の不在や従業員不足で会社の継続が困難になるケースが増えているのです」 そう解説するのは、帝国データバンク情報統括部の藤本直弘氏である。 「M&Aを巡っては、2024年を“中堅企業元年”と位置付ける政府の方針転換もありました。コロナ禍の頃まで、政府は銀行に対し、経営の行き詰まった企業への積極的な融資を促し、倒産件数を低く抑えてきました。しかし、人口減少が続いていく日本においては、単に企業の数をキープするのではなく、競争力の高い企業を増やしていくことが重要です。そこで政府はDXやM&Aに積極的な中堅企業を税制面で優遇することにしたのです」 以前からあった大企業の“選択と集中”に、中小企業の“後継者不在”が加わり、さらには政府による積極的な後押しもあって、「M&A」を耳にする機会が増えているというわけだ。 「政府がM&Aを推奨する背景には、国民の所得水準を高めようという狙いもあります。事業の効率化や合理化は企業の収益性を向上させますが、それは結果的に従業員の給料アップにも繋がります」(荒井氏)
高収入で東大生の人気就職先? 気になる収益構造は
「給料」と言えば、M&A業界は給与水準の高さでも知られている。 M&A御三家の1つ、M&Aキャピタルパートナーズの平均年収は約2400万円と言われており、高年収の代名詞的存在であるキーエンスの約2000万円を抜き日本企業で第1位となっている。それもあってか、最近は東大、京大、一橋など高学歴な学生の人気就職先にもなっているという見方もあるようだ。 荒井氏がトップを務めるストライク社も平均年収は約1200万円。実際、東大生がこぞって入社試験を受けに来るのだろうか――? 「それは言い過ぎです(笑)。確かに高学歴な社員は多いですが、東大生がこぞって、ということはありません。平均年収の高さについて聞かれることも多いですが、この数字は“平均マジック”によるところもある。ストライクは社員数が約400名ですので、極端な話、1人で4億もらう社員がいればそれで平均年収が100万円上がることになります。業界最大手のM&Aセンターさんでも社員数は約1200名ですから、5000人や1万人が働く大企業の平均年収とは単純比較できないと思います」(荒井氏) そうは言っても、かなりの高収入であることには違いない。やはり、営業マンがバリバリ案件を獲得し、歩合制で給料がガンガン上がっていく、という企業風土なのだろうか。 「必ずしもそうとは言えません。各都道府県には『事業継承・引き継ぎ支援センター』の窓口が設置されており、企業のオーナーさんが相談に来ると、登録された事業者に通知がきます。他にも、企業に出入りする会計事務所や税理士さんを通じてお声掛け頂くケースも。企業の選定から自分たちで行う“ダイレクトソーシング”を専門にする会社もありますが、内訳は会社によって全く違います」(同) M&A企業の収益構造についても聞いた。 「売買手数料が収入源という点で、不動産業界と収益構造は似ています。ただ。不動産は手数料の上限が3%+6万円と決まっていますが、M&Aは価格が統一されていませんので、手数料は会社によってまちまちです。売買代金が高くなるにつれて料率の低くなる“レーマン方式”を採るところが多く、大型案件では1%程度の場合もありますし、規模の小さなM&Aでは5~8%ほどの手数料が発生するケースもあります」(同)