「なぜ生物は死ぬのか」という問いは間違い…生物学者の東京大学教授「死ぬものだけが今存在している」深い理由
■進化しないものは絶滅し、多様性ある生物が生き残った 生物は突然降って湧いたわけではなく、単純なものから少しずつ変化と選択を繰り返しながらできていきました。進化のプログラムの根底には、常に「作っては壊し」があり、死ぬものだけが進化できたといえます。 ですから、「私たちはなぜ死ぬのか」というのは問いとして間違っていて、「死ぬものだけが今、存在している」というのが正しいと思います。逆説的な話ではありますが、死なないと進化のプログラムが動かず生命の連続性を維持することはできなかったのです。 進化をやめて「死なない」という選択肢を取るものもいたかもしれませんが、多くは絶滅したと推察されます。中には、不死とまではいかなくても、死ぬというプログラムがなかなか動かず、ものすごく長生きになってしまったものはいます。 北極海などに生息するニシオンデンザメとかアイスランドガイという二枚貝は400年くらい生きるといわれています。そのような動物は概してあまり環境が変わらないところに住んでいるために、昔ながらの形態のままでもよかったのかもしれません。 ただ、そういう場所以外の地球の環境は変化がありますから、長生きするよりも「ちゃんと寿命が決まっていて、世代交代して多様性をいつでも作れるような生物」の方がよかったでしょう。加えて有性生殖により、親と少し違う子どもを作るようなライフスタイルの生物が、最終的に生き残ってきました。 生物には多様な種が存在し、生態系が複雑になるほど、いろいろな生物が生きられるようになります。そして、それぞれの生物はいろいろな戦略で生き残ってきました。 例えばキリンの首は戦略的に伸ばされたわけではなくて、突然変異で長い個体が生まれ、たまたまその個体のいた所にいい具合に食べ物があったのでしょう。普通に考えれば、首が長過ぎると不便でしかないのですが、彼らの生きる環境ではその方が有利だったから選択されたと思われます。進化とはそういう偶然の繰り返しなのです。