70代のタクシー運転手の半数に視野などの異常、運転手を対象にした初の眼科検診で明らかになった不都合な事実
交通事故は継続的に減少傾向にあるが、2023年に気になる変化がみられた。警察庁のデータによると、交通事故は順調に減っているのだが、自動車乗車中の重傷者は過去10年で初めて増加に転じたのだ。 【図表】タクシー運転手を対象にした眼科検診の結果。グラフを見ると、視野障害などの異常所見は全体の20%に達している。その原因も緑内障や緑内障疑いが多い 背景にはシートベルト非着用や携帯電話の使用といった問題のほか、高齢運転者の増加の問題もあるようだ。高齢者による事故においては、認知症やてんかんといった脳の病気との関連だけでなく、目の病気である緑内障との関連についても注目を集めている。 この4月、国土交通省が、バス、タクシー、トラックという職業運転手事業者を対象とした眼科検診の結果を公表した。職業運転手を対象とした大規模調査としては初めてとみられる。この調査結果を紐解きながら、緑内障のリスクについて書いていこうと思う。 ■ 圧倒的に高いタクシーの事故率 まず、事業者の眼科検診が注目される理由について。旅客の命にかかわるということは当然として、交通事故の頻度が事業者で多いことも背景にある。 最近、タクシーが絡む痛ましい事故があったことも記憶に新しいが、事業者の交通事故の頻度が高いという事実はよく取り沙汰されている。 内閣府の規制改革推進会議「第2回地域産業活性化ワーキング・グループ」の中で、LINEヤフー会長の川邊健太郎委員が23年11月に説明しているように、特にタクシーの事故率が高い。 同委員の説明をみていくと、バスの交通事故率は一般の普通乗用車や軽自動車よりも低いのに対して、タクシーやハイヤーの交通事故率は普通乗用車の1.5倍以上だということが分かっている(出典: 萩田賢司、横関俊也「各種の道路交通暴露度指標を活用した交通事故率の分析」)。 さらに、次ページに載せた国土交通省の事業用自動車の交通事故統計を見ても、バスやトラックと比べてタクシーは交通事故件数が圧倒的に多い。
■ タクシー運転手は60代の事故割合が圧倒的に多い なお、同委員の説明では、タクシーは60歳以上の事故割合が圧倒的に多く、重大事故を起こした運転手の年齢は65歳以上が圧倒的に多い。 こういった情報はライドシェア解禁を視野に入れた議論の中で出てきたもので、タクシーの問題点を強調する狙いがあったのだろう。ただ、それを割り引いても、タクシー運転手の高齢化と、それに起因する事故を防ぐ対策が早急に求められるという事実は変わらない。 一般的に考えれば、タクシー運転手などは一般人よりも運転技術が優れているはずだが、それでも事故率が高いのは、健康問題も影響しているに違いない。いくら運転技術が高くても、疲労が蓄積し身体を酷使し続けていれば、感覚は短期的、長期的に衰えやすくなる。運行頻度や走行距離も関係すると考えられる。 そうした中で、国交省が注目しているのが緑内障などの目の病気だ。視野が狭くなるなど、交通事故に直結する問題になり得るからだ。 国交省では、タクシー運転手などの事業用自動車の運転者が視野障害によって起こし得る交通事故を減らすため、22年3月に日本視野画像学会監修の下、「自動車運送事業者における視野障害対策マニュアル」を策定した。 その上で、「眼科検診普及に向けたモデル事業」を実施。この中で、職業運転手の眼科検診による大規模な調査が行われ、冒頭に紹介したように、今年4月に国交省はその結果を公表した。職業運転手の目の検査は、労働安全衛生法で定められている「視力検査」のみだが、さらに詳細に、眼圧検査と眼底検査まで行っている。 これは交通事故と目の病気との関係が疑われる中で、必然的な流れといえるだろう。実態をまず把握することが重要である。眼科検診普及に向けたモデル事業には、21~23年度で約2400人が参加し、多数の運転手を対象に目の病気の可能性が調べられた貴重なデータといえる。その結果をみると、驚くべきことが明らかになった。なんと検査対象となった2376人のうち約20%に異常所見が確認されたのだ。 ※ここには、緑内障、緑内障疑い、網膜疾患のほか、白内障、メガネが合っていないなどが含まれる。 特に重要なのが、国内の失明原因第1位である緑内障が27人、緑内障の疑いが182人、網膜疾患が58人など、緑内障を中心とした視野障害の原因疾患(疑いを含む)と判断された人が多数出たことだ。全検診者のうちの267人、全体の11.2%と、目の病気が多数確認された。 内訳は「緑内障」「緑内障疑い」(医師コメントに眼圧高値や視神経乳頭陥凹拡大とあったもの)、「網膜疾患」(こちらは網膜出血、黄斑変性の疑い)がほとんどだった。