70代のタクシー運転手の半数に視野などの異常、運転手を対象にした初の眼科検診で明らかになった不都合な事実
■ 異常所見のある運転手が精密検査を受けないのはなぜか? この検診では、3年にわたって異なる会社を対象として眼科検診を実施しているが、有所見者((1)異常ありと(2)異常ありの疑い)の割合はほぼ同じだった。 つまり、今回の調査結果は、おおむねどの事業所にも当てはまるということだ。それだけ普遍的な問題として目の病気がまん延し、視力検査のみが行われているために見逃されている可能性が考えられる。 一方で、「異常所見あり」という評価の運転者が精密検査を受けた割合は低く、精密検査未受診率は21年~22年度検診者で61%~65%、23年度の検診者では80%に達している。異常があるにもかかわらず放置されている実態もうかがわれる。 目の病気があるのに、医療の手が及ばない運転手が野放しになっているのだ。 運転手にとっては、精密検査などを受けたら仕事に差し障るのではないかという心配があるのも確かだろう。ただ、精密検査を受診した人でも、ただちに運転を中止しなくてはならないような事例はなかった。運転業務に支障をきたす前に発見し、適切な定期検査や治療を受ければ、運転を続けることは可能だ。 精密検査の未受診率が6割以上であることから、健康問題を抱えている人たちが知らずに運転していることもあるだろう。 21~22年度の受診者については、1年後、2年後の追跡調査も行っている。この調査で精密検査を受けない理由を聞いたところ、「業務多忙のため」が一番多く、「自覚症状がないため」という理由も挙げられていた。 なお、この調査では業態と年齢に分けた結果も示されており、70代のタクシー運転手では半数に目の異常が認められた。高齢ドライバーをはじめ職業運転手の健康問題への対処は待ったなしといっていい。 自動車運送事業にかかわる視野障害対策ワーキンググループの委員である國松志保医師(西葛西・井上眼科病院副院長)に聞いたところ、日本視野画像学会では、事業主に視野障害と運転についての理解を深めるため、「自動車運送事業者における視野障害対策マニュアル」を、さらに分かりやすく改訂する方針という。 また、22、23年度の受診者についても追跡調査をしており、国交省を通じて、精密検査の受診勧奨を働きかける見込みだ。同氏は、「運転寿命の延伸のためにも、事故を防止するためにも、多忙な職業運転手が眼科検診を受けられるシステムの構築が必要」と述べている。 厚労省では、現在、労働安全衛生法の健診項目の見直しを進めており、日本眼科医会からの働きかけで、眼底検査を追加する動きがある。「やはり労働安全衛生法の項目に眼底検査が組み込まれることが、最善の解決策ではないか」という。