【受注数30%増】ジープやアバルトに日本人が熱狂中。絶好調の秘密と今後の注目モデルを探る
ーーステランティス。 世間一般にはあまり馴染みのない名前かもしれないが、「フィアット」「アバルト」「ジープ」「アルファロメオ」「プジョー」「シトロエン」……自動車史に燦然と輝くビッグネームを擁し世界第4位の販売台数(2023年)を誇る巨大自動車メーカーだ。 【写真をもっと見る(45枚)】 2021年に「グループPSA」と「FCA」が合併して誕生したステランティスは、そのブランドの本拠地を見てもイタリア、フランス、アメリカ、ドイツなど多岐に渡る多国籍軍といった様相。個々のブランドが強く各国で規制もバラバラなため、一見するとその舵取りは非常に難しそうだが、そんなステランティスの日本での販売が好調だという。そこでステランティスジャパンの代表取締役社長を務める打越晋氏に、グループの強さの秘密と今後の展望を聞いた。 ここ数年、コロナショックや半導体不足に始まり、最近では物流費の高騰や急速な円安など、海外から自動車を輸入するインポーターにとって厳しい環境が続いていた。その中でもとりわけ国内では、フィアット/アバルト、ジープが前年を上回る受注数を獲得し好調だという。打越社長は好調の要因を次のように分析する。 「お客様が求めていることにフォーカスしたコミュニケーション(施策)が、期待以上の効果が出ている(打越社長)」 その愛らしいルックスとボディサイズで日本で人気を博してきたフィアット「500」は、ピュアエンジン(ICE)モデルの生産が今年5月に終了した。 今後は電気自動車(BEV)の「500e」がそのバトンを受け継ぐことになるのだが、登場から16年もの歳月が経過しているにもかかわらず“最後のガソリン車”としてキャンペーンを行ったところ、駆け込み需要も手伝い受注数が30%も増えたという。 また日本がイタリアに次ぐ第2位の市場(2023年)にまで成長し熱狂的信者を獲得するアバルトは、“最後のガソリン車”ということに加え75周年の限定車を投入したことで、こちらも予想を超えた受注を獲得したそうだ。 ちなみに両モデルともステランティスジャパンとして日本向け生産枠をかなり確保したそうだが、その在庫も尽きかけてるといい、このお盆がまさに”ラストICEのラストチャンス”になるという。 ジープは今年、人気の「ラングラー」のマイナーチェンジモデルが導入されこちらも絶好調。エントリーグレードである「アンリミテッド スポーツ」も投入し30%も受注が増えたそうだ。未舗装路がほとんど存在しないにも関わらず、日本は世界で4番目にラングラーが売れているマーケット(2023年)ということ自体驚愕だが、特筆すべきは若年層からの人気の高さだ。 「マイナーチェンジで30%も受注が増えるのは我々もビックリだった。若い方の(店舗への)来場も増えており、我々のコミュニケーションが狙ったターゲット層へしっかり届いたのだと思う。若い方でも買いやすいよう色々な(買い方の)オファーやサポートをしているが、やはり『ジープを買いたい』という強い想いがお客様を突き動かしているのだと思いますね(打越社長)」 曲者揃いのステランティスのラインアップの中にあって、一癖も二癖もあるラングラー。ベース車のリミテッドスポーツは799万円と世間一般には高額な部類に入るモデルにも関わらず、購入層の平均年齢は国産SUVよりも10歳近く若いという。 8月7日からはジープの試乗キャンペーンを行うなど、効果的な施策を逐一投じている印象だが、国内外問わず強力なライバルがひしめく日本のマーケットにおいて、ここまでフィアットやアバルト、ジープが支持される理由はどこにあるのだろうか。打越社長はブランドの尖り具合だと説明してくれた。 「(コロナ以降)我々も色々な課題に直面していますが、我々のブランドは尖っている。お客様が持つ尖ったイメージに応えられるような施策や商品を出し続けることができた。ジープがジープらしくなかったら『じゃあいいや』となってしまう。尖っているところを丸くしなかったことが、苦しい中でも結果を出せた要因だと思っている(打越社長)」 マーケティング部の新海宏樹氏が補足する。 「ジープで当たったから他でもやろう、という横展開の施策ではなく、このブランドの強みは何なのか、他のクルマと比べてのアピールポイントは何なのか、というのにこだわっている。各ブランドのマネージャーが、ブランドのアイデンティティを大切にしながら、いかに我々のメッセージをお客様に届けられるかを常に考えている(新海氏)」 個性派集団とも言えるステランティス。今後は”電動化”の旗のもと魅力的な車種の投入が相次ぐ。 まず9月10日には、フィアット「500X」の後継となるコンパクトSUVの「600e」が発売。矢継ぎ早に26日にはジープから小型SUVである「アベンジャー」が発表になることがアナウンスされた。 どちらもステランティスのグローバルプラットフォーム「eCMP」を使用する兄弟車だが、アベンジャーは2023年の「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」を獲得した実力の持ち主。否応なく期待が高まる一方で、まずは両モデルともBEVモデルからの導入となる。世界的にBEV一辺倒からの揺り戻しが起きている中、BEV不毛の地である日本において勝算はあるのだろうか。 「我々は尖っているからこそ、BEVになってもジープはジープ、フィアットはフィアット。バッヂを取ったらどこのクルマかわからないBEVもある中で、うちのクルマはバッヂを取ってもどこのブランドのクルマか一目でわかるクルマを入れていく。お客様がそのブランドに期待するクルマを入れられるのが我々の強みなので、そこは絶対に消さない(打越社長)」 新海氏は、アベンジャーがヨーロッパで受け入れられた背景を説明してくれた。 「アベンジャーはヨーロッパにおいて数ヶ月で1万台以上を受注した。他社はこれまで、静かで環境に優しくて航続距離が〇〇で安心で……という優等生タイプのコミュニケーションを展開してきたが、アベンジャーは運転して楽しくワクワクする、そしてラフロードも走れるというジープらしさを全面に打ち出したコミュニケーションを行ったのが支持された。そこを我々も狙っていく(新海氏)」 今回直接の名言は避けたが、車名に関するドタバタで違った意味で話題となってしまったアルファロメオ「ジュニア」も来年度中には登場する予定であり、こちらの前評判も非常に高い。さらには、新型プジョー「3008」や、「ベルランゴ/リフター/ドブロ」のマイナーチェンジも控えるなど、個性的かつ魅力的なモデルが今後も矢継ぎ早にデビューする。 クルマ好きにとって、エンジン車が消えBEVに置き換わっていくのは一抹の寂しさも伴うが、そこにも打越社長はしっかりと答えを用意していた。 「ステランティスはグローバルで、BEV一辺倒ではなくPHEV(プラグインハイブリッド)やMHEV(マイルドハイブリッド)もラインアップとして持っているので、日本市場の動向に合わせたパワートレインはしっかり入れていきたい。アベンジャーも600eもBEVから始まるが、将来的にはMHEVも入ってくる(打越社長)」 冷静に考えてみると、これだけの規模と個性的なブランドを擁するステランティスにあって、BEV一本に賭けるのは非常にリスクが伴うため柔軟性を持ってビジネスを行っているのは至極真っ当なのかもしれない。 現に、今後登場するモデルに使われる4つのプラットフォーム「STLA Small/Medium/Large/Frame」はBEV専用とは謳っていない。つまりそれは、同社はこれからも内燃機関モデルを作り続けるという意思の現れだ。BEV一辺倒と思われている中で、非常に強かに立ち回っている。 「ステランティスという名を全面に出すということは今後もしないと思いますね。私はよく冗談半分で『皆さんステランティスを知らないと思いますけど……』って言うんですけど、それでいいと思っている。BEV、MHEVなど色々なパワートレインの導入については、それぞれのブランドが独自に日本の市場を見ながら決めていく(打越社長)」 「ステランティス」。その名はラテン語で「星が光り輝く」という意味の「Stello」に由来する。それぞれのブランドが個性を大切にし星のように尖ることで、群雄割拠の日本の自動車マーケットの中でますます輝きを放つ存在となりそうだ。
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