小保方氏のHP開設と繰り返される「流言」の意味
「STAP現象」が再現されていた?
「STAP現象」が「理研で再現されていた」という情報についても検討してみます。 結論からいえば、これは「流言(悪意のない誤情報)」です。理研の「STAP現象の検証」を二重に誤読しているためだと思われます。 理研の検証結果は31頁のスライドと5頁の報告書で公表されています。小保方氏自身による「検証結果」と丹羽仁史氏による「検証結果」が記述されています。丹羽氏の実験では、『ネイチャー』論文の方法とは別に、肝臓の細胞を前述の「ATP(アデノシン3リン酸)」で処理すると「STAP様(よう)細胞塊」が出現し、多能性を示すマーカー(目印)である遺伝子「Oct3/4」の発現がわずかに見られたといいます(スライド20~25頁)。これが拡大解釈されたようです。 そもそも『ネイチャー』論文では、脾臓を塩酸で処理していたはずです。これだけで『ネイチャー』論文が再現されたわけではないことがわかります。 「STAP様細胞塊」はその奇妙な名称からわかるように、STAP細胞でもSTAP幹細胞でもなく、その候補にすぎません。STAP細胞は日本語では「刺激惹起(じゃっき)性多能性細胞」といい、「P」は「pluripotency」、つまり「多能性」という意味です。「様」が残っていることも重要です。 「STAP現象の検証」では、丹羽氏は14のSTAP様細胞塊の遺伝子発現を調べましたが、ほんの少しでもOct3/4の発現が見られたのはそのうち10です。しかしES細胞と比べて、その10分の1以上のOct3/4発現が見られたのはわずか4つです。縦軸が「対数」で示されたこのグラフを見る限り、ES細胞と同等のOct3/4が発現しているとはみなせません。科学では「量」が重要なのです(スライド25頁)。 さらにいえば、Oct3/4の発現は、その細胞が多能性を持っているということの「必要条件」ではあっても、「十分条件」ではありません。「STAP現象の検証」では、「キメラ法」と「テラトーマ法」、「分化誘導法」が、「多能性を有することを検証」する方法だとされました(スライド26頁)。 丹羽氏は肝臓由来の「STAP様細胞塊」を、初期胚に注入して「キメラ胚」作製を試みました。この「キメラ法」が最も確実な多能性の確認方法だとされているからです。細胞塊を注入した胚は244個に上りますが、GFP陽性細胞、つまりOct3/4の発現が確認される細胞を含むキメラ胚は1つもできませんでした。テラトーマ法と分化誘導法は実施されませんでした。 丹羽氏は「細胞塊が有する緑色蛍光を自家蛍光と区別することも困難で、その由来を判定することはできなかった」、「STAP様細胞塊より、さまざまな手法、条件でキメラ作製を検討したが、リプログラミングを有意に示すキメラ作成を認めることが出来なかった」と結論づけています(スライド31頁)。つまり「十分条件」を満たしていないのです。「bioRxiv」にアップされている投稿中の論文原稿でも同様です。 この結果から、「STAP現象」が「理研で再現されていた」という解釈を導くことには無理がありすぎます。わずかなOct3/4の発現だけで、リプログラミング(初期化)が起き、多能性が獲得されたなどとみなすことは、細胞生物学の歴史を踏まえていないことになります。