「エミリー、パリへ行く」は幻想!? 世界中が憧れる「パリジェンヌ」の実態とは?
美しくも古臭いイメージ
ニューヨークとパリを行き来するキャリー・アン・ジェームスに言わせれば、このようなパリジェンヌのイメージは美しくも古臭く、現実と乖離している。「海を隔てていても、女性の暮らしはどこでも似たようなもの。家事に追われ、ストレスを抱え、疲れています。唯一の違いは、パリジェンヌの場合、身だしなみとか、ほかの人からどう見えるかを気にしていることです」とキャリー・アン・ジェームスは違いが服装に表れることを指摘した。パリジェンヌは、ニューヨーカーのようにルルレモンの定番レギンスにスニーカーといったスポーツウエアで出かけない。「表で誰と出会うかわからないから」だ。そしてそのことはパリの街中を歩くだけでも違いがわかるとレアンヌ・アンサーは言う。「パリジェンヌは、意識していなくてもスタイリッシュです。ニューヨークの女性は日々それをお手本にしようとしているのです」 パリジェンヌがヨガウエアを着て外出することが少ないのは、スポーツにあまり依存していないからで、一方、ニューヨークの女性たちは毎朝の「ワークアウト」に固執していることもキャリー・アン・ジェームスは指摘した。「パリジェンヌのほうが時間と穏やかに向き合っています。時間を何に、どう使うかについて、より自覚的なのです」とのこと。それはより自然体と言い変えられるかもしれない。ニューヨークの女性たちはいざとなるとヘアからメイクまで入念な身支度をするために時間を多大に消費する。 時間感覚の違いは仕事において最も顕著だ。「たとえば米国、とりわけニューヨークでは仕事をとても重視します。パリでは、ヴァカンスのほうが重要だし、一般的に休憩時間も大事にします」とキャリー・アン・ジェームズ。「これはアメリカ女性がパリに抱く妄想に繋がります。自分たちもパリに住めば散歩したり、テラスでコーヒーを飲んだりする時間がもっとあるだろうと想像するのです」
ありそうでないステレオタイプ
しかしながら実際のパリジェンヌはこのようなステレオタイプで捉えられない。「メディアや広告は、神話化されたパリジェンヌの理想像をたれ流しています。それが売れるからです。過剰なメディア化により、ステレオタイプがもっともらしく見えてしまう。この流れを変えるのは難しいですが、自分なりにできることをしようと思います」とフランス人インフルエンサーでクィアのセシリア・ジュルダンは語る。彼女はニューヨークから「Hello French」のアカウント名でパリジェンヌの多様性について発信している。 2006年からパリに住んでいるアメリカ人ジャーナリストのリンジー・トラムタもパリに対する固定観念と戦うひとりだ。「メディアは表面的なイメージを植えつけています。たとえばニューヨーク・タイムズ紙はジャンヌ・ダマスに、「メゾン・デ・ファム」(訳註:性的暴力の犠牲となった女性を受け入れるパリ近郊のシェルター)を支援していることについて一切質問していません。なかなか変わりませんが、人々が実際にパリを訪れたら、この街の多様性を発見するでしょう」と今後に期待を寄せる。リンジー・トラムタは2020年、『The new Parisienne - The women & ideas shaping Paris (原題訳:新しいパリジェンヌ、パリを形作る女性と思想)』という本を出版し、40名のフランス女性、たとえばジャーナリストのロラン・バスティドや活動家のロカヤ・ディアロ、パリ市長のアンヌ・イダルゴらを取り上げた。多様なパリジェンヌ像を紹介することで、インスタグラムでの単純すぎるステレオタイプなイメージを打破することを目指している。「パリジェンヌの神話は、時代遅れのワンパターンなイメージに基づいています。私は、文化の中心であるパリがパリジェンヌのパワーに支えられていることを明らかにしたかったのです」