被写体は「探さない」、杉本博司が語る写真家としての原点
作品が表す独自の「空間感」
そのほか杉本は、彫刻とは異なる立体作品の制作にも挑戦してきた(マルセル・デュシャンの「レディ・メイド」作品を引き合いに出している)。それらの作品について、「彫刻ではなく、(数式を立体的に表現した)模型」だと説明している。 ここ数十年、ますます多くの空間や建造物の設計を依頼されるようになった杉本は、建築設計事務所の新素材研究所と、伝統的な芸術・美術の振興を目指す公益財団法人・小田原文化財団を設立した。対談ではこれらの団体について、「17人の建築家が働いていますが、資格を持っていないのは私だけです」笑いながら語った。 ■「空間」に対する独自の感覚が生む作品 写真と彫刻、建築のいずれも手がける彼には、独自の「空間感」があるという。そして、それらのすべての分野において目指すのは、空間と光のバランスを取ることだという。 これらの分野において、杉本は自らを動作主体とはみていない。芸術をイメージしたり、見たりするための、手段だと捉えている。「芸術家は、世界の美を想像するのではなく、発見しなければならない」と話す彼にとって、「デザインに優れているのは人間よりも自然」だというのが基本的な前提だ。 いっぽう、仏教徒ではないものの、彼の作品には仏教の概念、「空(くう)」にヒントを得たものも多い。ロサンゼルスにあるリッソンギャラリーで11月15日から2025年1月11日まで開催中の個展、「Form is Emptiness, Emptiness is Form」(色即是空、空即是色、の意味)には、「Sea of Buddhas(仏の海)」シリーズの写真や、印画紙の上に筆で文字を書いた「Brush Impression」シリーズの新作、「Heart Sutra(般若心経)」が展示されている。 壁一面の黒の背景に光に照らされた文字が浮かび上がる堂々たる2023年発表のこの作品は、カメラを使わず暗闇の中で、光と光化学反応を用いて作成されたものだ。 この作品で杉本が私たちに促すのも、より多くのものを見ることだ。肉眼では見えないものも存在するということ、現在も未来も、過去から知識を得ていること、実体のないものも、見ることができると語りかけている。
Tom Teicholz