被写体は「探さない」、杉本博司が語る写真家としての原点
「美しい写真を撮りたいなら、何か美しいものを撮りなさい」──アートセンター・カレッジ・オブ・デザインの写真学科の創設者であり、初代学部長でもあるチャーリー・ポッツの有名な教えだ。 【画像】杉本博司の作品 ポッツの下で学んだアートセンターの卒業生、写真家でアーティストであり、現在は教壇にも立つマシュー・ロルストンは先ごろ、同校で開催されたイベントで、同じようにポッツの教えを受けたもう一人の卒業生、杉本博司に同窓会の特別功労賞を授与。そのときに、この言葉を読み上げた。 現代アーティストであり、建築も手がける写真家の杉本は、時間の概念、現実とは何か、写真とは何であるかといった考え方までも覆すような作品を生み出してきた。この日のイベントに出席していたある人は、杉本が私たちに促すのは、「向こう側」を見ることだと語った。 その杉本を理解するには、カリフォルニア州パサデナにあるアートセンターを理解する必要があるだろう。同校は創設以来、一貫して、芸術的創造性、デザインにおける創造性を育む職業訓練の場であり続けている。学生たちが主に学ぶのは、制作の技術的な面だ。 杉本はアートセンターのアーマンソン・ オーディトリアムで10月29日に行われた美術ジャーナリストのジョリ・フィンケルとの対談の中で、母校では「十分な教育を受け、非常に優れた職人になるための訓練を受けた」と語っている。 ■商業カメラマン目を指したが── 1948年に東京で生まれた杉本は、学生運動が盛んだった1960年代後半に大学でマルクス経済学を学んだ。長男だが家業を継ぐのに適任ではないと両親に判断された杉本はその後、母親からの経済的支援により、1970年にアートセンターに入学した。 1974年に卒業すると、商業写真家として働くためにニューヨークに向かうが、数カ月後には「向いていない」と自ら判断したという。その杉本の心をつかんだのは、ミニマリズムを代表するアーティスト、ドナルド・ジャッドとダン・フレイヴィンだった。 杉本は対談でフィンケルに、自分は「撮影するものを探し回るタイプの写真家ではない」と述べている。常に仮説を立て、そこから浮かび上がるビジョンを実現するために、撮影するのだという。 1980年から制作を続ける「海景」シリーズの作品は、世界のさまざまな場所で撮影されたものだが、水平線によって二分される構図は常に一致している。抽象表現主義の代表的な画家の一人として知られるマーク・ロスコの作品のように、感情的反応を引き起こす力があると高く評されている。