岡田武史が考えるFC今治と日本サッカーの未来予想図「育成こそが大事だってことを日本サッカーの成長が示している」
「ホラ吹き」かもしれないが「詐欺師」ではない
自ら時間の制限を設ける以上、次の一手も大きなアクションとなることは大体察しがつく。共助のコニュニティづくりは、まさにここからが正念場という思いが岡田にはある。 「FC今治高校の生徒たちと一緒になって共助のコミュニティづくりをやっていく。空き家を修理して(3年生時に退寮する生徒たちの)シェアハウスにする、みたいなところも含めて始めていくけど、ほかに案として挙がっているのがアシックス里山スタジアムの近くに学校の校舎を建てること」 というのもFC今治高校への関心が高まってきたからだ。前回お伝えしたとおり、初年度の第一期生は定員80人中34人しか集まらなかったが、2025年度は推薦・一般受験合わせて定員は埋まる見込みだ。 次年度もそうなっては里山校の校舎が足りなくなる問題に直面する。 スタジアム周辺に新たな校舎を建てることができれば、インクルーシブ教育を実現する場になるというのが岡田の狙いだ。 岡田が言葉を続ける。 「FC今治高校の生徒たちの校舎があって、おじいちゃんやおばあちゃんが集える施設や、障がいを持っている人が集える施設があれば、スタジアムを中心にしてもっと交流できるし、もっと(共助のコミュニティの)理解も深まると思うから。 さらに言えば、スタジアム周辺をアートの拠点にもしていきたい。愛媛県と東京藝術大学の連携プロジェクトが始まっていて、スタジアムを中心に誰もがアートを楽しめる場所にしたいとも思っている。 チームのことで言えば、新しいトレーニング場もつくりたい。 こんな感じで同時にいろんなことを走らせようとしているから、頭の中はこんがらがってるけど(笑)」 あと2年でそれができるかどうかは分からない。大きな構想だけに「そんなにうまくやれるのだろうか」と思われがちだが、岡田武史という人はこれまでも無理だと言われたことを、やり遂げてきた。 FC今治の代表に就任した当初は地域住民に歓迎されていないことは感じていた。都会からきたよそ者がここで一体何をしようとしているのか、と警戒された。 「確かに今治の人は、とっつきにくいところはあったよ。でも一度信頼してくれたら、とことんついてきてくれる。そういうところがある」 元々はサッカー好きより野球好きが多い愛媛の地。人口約15万人の今治に40億円を投じたアシックス里山スタジアムを完成させ、チケットが完売するまでにサッカー熱を高めるまでになった。 スタジアム周辺に共助のコミュニティエリアが誕生すること、誰もがアートを楽しめる場になることも、岡田が言えば夢物語には聞こえない。 己を「ホラ吹き」と自虐的に言うときもある。しかし最初は「ホラ」であっても、結局は「ホラ」でなくなっている。 「一歩間違えたら詐欺師だって言われることもあるよ。でも詐欺師っていうのは、自分が儲けようと考える。だから俺とは決定的に違う。 儲けようとは少しも思っていないから、ホラ吹きと言っているだけ。大きなことを語ったところで絶対にできるなんていう自信はない。やってみたいと思ったら、勝手に動き出すほう。 そうなったら、もう後には退けない。それだけだよ。オーバーに言うと命を懸けてやっていたら、想いって通じるもの。助けてくれる人がいろいろと現れてきて、何とか形になっている。そんな感じなのかな。 これまでの10年は(相手もFC今治の理念に)共感したから一緒にやるよっていうリターンの期待をしなかったと思う。でもウチとしてもリターンを期待してもらって、投資を受けられるようにならないといけない。夢だけで資金が集まるものではないから」 夢も語るが、現実も見る。なるほど日本代表監督して幾多の修羅場を潜り抜けてきた岡田武史らしいとも思えた。