“アリエル”になった男性会社員のその後は? 会社にもメイク&可愛いファッションで出社「男性のまま可愛くなるということに、偏見がなくなれば」
■若者は受け入れても高齢層は難しい? SNSにはいまだ中傷や偏見も
――日本社会もだいぶ変わったように感じますが、にこさんにとって今は生きやすい世の中になっていますか? 「多様性への関心が高くなり、確実にいい方向に向かってきていて、その点はすごく嬉しく思っています。でも、本当に生きやすい世の中にはまだまだ遠いかなというのが正直な気持ちです。SNSには理解不足からくる中傷や偏見が飛び交っていますが、若い人はすんなり受け入れてくれる人も多いです。一方で、昔の日本社会を見て来た年齢層には受け入れられない人も多い。まだまだ社会全体の意識が統一されていないような感じがしています」 ――性的マイノリティを表すLGBTQに、近年さらに「+」が付いたように、性は実に多様ですからね。 「一人ひとりの中に男らしさ、女らしさ、どちらにも属さないような気持ちなどいろいろなバランスがあると思うんです。僕自身は、可愛くなりたい平凡な男の子。恋愛対象も女性ですし、男性のまま可愛くなるということに、偏見がない世の中になればいいなと思っています」 ――SNSで発信するのは、その思いからなのですね。 「もうひとつの思いもあります。今LGBTQの方々はじめ、個性的な方がテレビなどを通じてたくさん表舞台に出てきています。そういった方々を見て勇気づけられている人も大勢いると思います。ですが、僕は小さい頃、逆に自分の性格や考え方ではそんなふうに生きられないと感じてしまって、あまり勇気に繋がりませんでした。 なのでSNSでは僕と同じように、一歩を踏み出せていなかった人たちを勇気づけられるようなことができたらと思っています。SNSを通じて、普通の人が当たり前に自分らしく生きる姿を届けることで、また違った角度から理解を深める機会を作れたらと思っています」
■「“色のない世界”を生きているみたいだった」ひたすら“周りの目”を気にして生きてきた過去
――あらためて教えてください。幼少期の頃から「アリエルになりたい」と思っていたそうですが、アリエルを好きになったきっかけは? 「もともとファンタジーが好きで、魔法とかにワクワクするような子だったんです。中でもアリエルは外の世界を夢見て自分なりに頑張っている姿にすごく感銘を受けて、『アリエルみたいに美しくも可愛くなりたい!』と4~5歳くらいから思うようになりました」 ――男の子である自分が、プリンセスになりたいと思うことについて、ギャップを感じませんでしたか? 「それはもちろんありました。僕の周りは、男の子は男の子と、女の子は女の子と遊ぶみたいな区別がはっきりしていたし、男の子は男らしくしていなければならないという偏見もありましたから。小さい頃って周りの情報がすべてですから。『可愛いものが大好きで、可愛くなりたいと思うのは恥ずかしいことなんだ』とインプットされてしまって、その気持ちを隠して、必死に男らしくしなきゃ、バレないように振舞わなきゃって考えていました」 ――自分の考えとは真逆な行動をとっていたんですね。 「そうですね。可愛いものが好きなので、たぶん女の子といたほうが楽だったと思うんです。だけど、あえてそうしないようにしていました。男社会特有のノリも嫌でしたが、必死に合わせようと頑張っていました。人目を気にしがちで、どう見られているかということにすごく敏感だったので、周りに気づかれないように考えすぎて、常に気を張っているみたいなところがありました」 ――「可愛くなりたいだけの平凡な男子」と公表しているように、にこさんは、体の性別と心の性別が一致しない性同一性障害ではなく、男性である自分は受け入れていらっしゃるんですよね。 「はい。自分は女の子になりたいのかな?と考えた時期がありましたけど、結果、僕は自分の性別が男性であることは受け入れられているし、そのままの状態で自分らしく可愛くなりたいんだということに気づいたんです。もちろん、子どもの頃はそんな分析はできませんでした。今のようにメイクをして、女性の服を着て過ごせる日がくるなんて、夢にも思っていませんでしたから。諦めというか、ずっと『来世は女の子に生まれて可愛くなりたい』と思っていました。今振り返ると、“色のない世界”を生きているみたいでしたね」