【なぜ日本野球はバントを“乱用”するのか?:第3回】ビッグボールの方が実は「手堅い」? セイバーメトリクスの専門家が“送りバント信仰”を斬る<SLUGGER>
――1イニング3アウトしかないのに、自ら貴重な1アウトを差し出してまで進塁させるのは非効率だということは、別にセイバーメトリクスの専門家でなくともよく考えたら分かると思うのですが……。 岡田 そう。なので、僕は意外と日本人はデータ好きじゃないんじゃないかな、と思えてきたんですよ。アメリカ人は本当に合理的に「このような数字が出てるからこういう攻め方やりましょう、そうやって得点を最大化しましょう」とPDCAサイクルを回すことができるのに対して、日本はどうしても「これまで勝ってきたチームがこういうことやってきたから、それに倣ってやりましょう」となるのが大きく違うのかなと思いますね。 ――日本は「得点圏にランナーを進めるメリット」を過大評価しているのに加えて、「強攻してゲッツーになるリスク」も過大評価していて、この2点が相まって「とりあえず送ろう」というメンタリティになっているような気がします。 岡田 おっしゃる通りですね。プロ野球でも、たまにバントをしない監督が出てくるんですが、だんだん元に戻ってしまうんですよね。やっぱり、選手も含めた周りの環境から、そういう方針を続けられなくなるようなプレッシャーがあるんじゃないかなと思うんですよね。 ――ゲッツーになるリスクも当然込みでの強攻策のはずなんですが、いわゆる「手堅い野球支持派」の人たちは、強攻してゲッツーになった瞬間に「それ見たことか」となりますよね。 宮下 「手堅い」というのが本当はどういうことなのか、その考え方を変えなければいけないと思います。実際にはバントなどを多用する、いわゆるスモールボールよりも、長打で点を取るビッグボールの方が手堅く得点を取りやすいんですよ。ホームランであれば必ず1点は取れるので。塁を進めることが目的であるなら確かにバントは手堅いんですが、得点を取る上では長打の方が手堅いプレーだという発想が、共通認識としてまだ定着してないんですよね。 ――そもそも強攻しても、ゴロアウトでランナーが進めば送りバントと同じ形になるわけですよね。振ってさえいれば、いい当たりでなくてもヒットになる確率だって十分あるわけで、強攻に対してあまりにもネガティブすぎる気がします。 岡田 根底には日本人の「その都度その都度、最適と思われる選択をし続けたい」という考え方がある気がしますね。アメリカの場合は、どちらかというと「勝つためにどのような戦い方が最適なのか」を考えるので。 ――日本では送りバントで得点圏にランナーを進めて点が入らなかった場合、監督が「あと1本が出なかった」と、あたかも自分としては最善を尽くしたようなコメントを出しますよね。「そもそもバント自体が間違っているのでは?」という発想にはなかなかならない。 岡田 どちらかというと、「チャンスは作ったからあとは任せた」という感じになってますよね。でもこれは見る側の問題で、特に解説者がずっとアップデートされてないまま解説をしているのが問題だと思います。MLBの中継では新しいデータや戦術をかみ砕いて解説者が伝えてくれますが、日本の場合は技術論やメンタル面の話が主で、中継の内容も昔からそれほどアップデートされていないと思います。若い解説者の中には最新のデータに触れた話ができる人もいますが、その割合があまりにも小さいというのが問題でしょうね。【第4回に続く】 取材・構成●SLUGGER編集部