キジムナーみたいな妖怪に「最近会ってないね」というおばあちゃんがいて…日本と海外の“裏”取材を語る【丸山ゴンザレス×八木澤高明対談】
人の心の襞に触れる物語 八木澤ルポはある意味「文学」
丸山:僕はこの『忘れられた日本史の現場を歩く』の推薦文で「これぞ八木澤ルポである」と書きましたが、本当は“八木澤文学”にしたかったんです。『青線』を担当していたときから、僕は八木澤さんの現場の描写、情緒、人との会話が好きなんです。読んでいる側の心の襞(ひだ)に触れるので、ルポというより、文学という言葉がぴったりとくるんですよ。 八木澤:話を聞いた人の話が事実かどうか判然としないところがあって、裏を取りきれない場合でも私が必要と感じればあえて書くようにしています。私も含めて人間の記憶や眺めている日常なんていい加減なもんだと思っていて、私が描いた世界が、嘘か真かは、本を手にとって下さった方々が判断してくれればいいんじゃないでしょうか。 丸山:選び取って書くところが、八木澤さんの文章にハマるんですよ。横浜・黄金町の外国人娼婦たちを描いた『黄金町マリア』(ミリオン出版/増補新版は亜紀書房)もそうです。人の思念を言葉にするのがうまいんです。今回は推薦文として具体例は野暮なので「八木澤ルポ、八木澤文体、八木澤文学」のようなキーワードを入れたいと思いました。そう考えると、もっと分厚く、もっと読みたいと思わせる本書の形はいいですね。からゆきさんの話なんかは、もっと深掘りしてほしいです。 八木澤:ありがとうございます。 丸山:「残すか、忘れるのか」とも推薦文に書きましたが、場所や人によっては残したくない、忘れたいものがあります。八木澤さんが今回巡った土地でも、その中でつむがれていくもの、今取材しなければ忘れられていたものがあるはずです。時間が経って手にとった人にも届く、断片のための旅だったのかもしれないと思いました。僕の好みの世界なので、この本で紹介した19カ所より、もっとめぐってほしいですね。
人々と不思議をつなぐ空気感は日本なら四国や九州に残っている
丸山:この本の冒頭は高知の呪術師から始まります。僕は四国と山陰には、日本の中でも古い事象、空気感が残っている気がするんですね。八木澤さんは日本を歩いていてどうですか? 八木澤:僕は九州の天草にそれを感じましたね。この本には入ってないですが、からゆきさんの話である村を取材しました。あの辺りは、カメラを持って村の中を歩いているだけなのに、接待をよくされたんです。都心では単なる不審者扱いになると思うんですけどね。 ちょっと話を聞いていると、「よく来たねぇ。そうめんでも食っていきなさいよ」と、食事が出てきました。昼時でなければお茶の場合もあります。それが1回だけでなく、どこに行ってもたいがい家で休んでいけと言われるんです。この本では、隠れキリシタンが住んでいた長崎県五島列島の「中通島」を紹介しましたが、そこも似た感じでした。「暑いからオロナミンC飲みなさい」「悪いこと起こるといけんから、塩もっていけ」とかね。よそものをほっておかない文化を九州では感じましたね。