「オリンピックもやらねんだもん。無理だよな」――祭りの「消えた」街、来年の確約もできない中で【#コロナとどう暮らす】
コロナ禍により、今年は全国各地で多くの祭りが中止・延期となっている。関東三大祭りの一つで、50万人ほどの人出がある「石岡のおまつり」も例外ではない。創建千年を誇る古社・常陸國総社宮の例大祭として行われる年に一度の「恒例行事」は、いかに見送られたのか。来年は実施できるのか。現地で話を聞いた。(取材・文:安藤智彦/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)
お囃子の「聞こえない」秋
「今年もまた、お祭りで秋を実感できるものだと思っていました。どこかからお囃子が聞こえてきたりして」 こう話すのは、茨城県石岡市で300年の伝統を持つ造り酒屋・石岡酒造の冷水貴子さん(32)だ。彼女が言う「お祭り」とは、地元で毎年9月に行われてきた、石岡のおまつりこと「常陸国総社宮例大祭」(以下例大祭)。コロナ禍の影響を鑑み、一部の神事を除き今年の催行は見送られた。
「お祭りにはお酒が欠かせませんし、御神酒など奉納用の準備もある。お祭りに合わせた限定商品もつくってきました。これまで普通にあったものがなくなったわけで、実感はまだない、というのが正直なところですね」 例大祭は、創建から千年以上を誇る古社・常陸国総社宮の神事として実施されてきた。その起源は8世紀にさかのぼるとされる。伝統の神輿や市内15町がしのぎを削る絢爛豪華な山車、獅子などが3日間練り歩くほか、総社宮の境内では神楽や奉納相撲も行われてきた。こうした「神賑行事」を、今年は実施しない。
総社宮には、第二次世界大戦中、そして終戦直後の1945年9月にも祭事を実施した記録が残っている。石岡市観光協会の木下明男会長(77)は言う。 「正月や盆には帰省しなくても、お祭りには帰るというほど、地元民にとっては思い入れのある祭りなんです」 冷水さんもこう話す。 「大学生の時は東京暮らしでしたが、お祭りのときは何があろうと絶対に帰ってきてました。石岡の人間には、お祭りの存在が染み付いてるのかもしれませんね」 昨年は、史上最多となる50万人以上の人出を記録し、「今年はさらに」という意気込みもあった。それだけに、「なんとか実施を」という声は多かった。 「石岡市全体で、年間の観光客は150万人ほどです。単純に計算すると3分の1が『飛んだ』計算になりますね。具体的な数字までは試算していませんが、億単位の金額が消えたのは間違いないでしょうね。コロナで、お祭り以外の観光需要も厳しい状況ですが……」(木下さん)