「亡くなって初めて体が語った」小1女児の全身にはあざが広がっていた 届かなかった訴え「パンチされた」。虐待予兆、2度の保護も救えなかった命
愛知県犬山市のアパートで2024年5月、小学校に入学したばかりの島崎奈桜(しまざき・なお)さん=当時(7)=が内臓を損傷するほどの激しい暴行を受けて亡くなった。遺体には全身にあざがあった。 【写真】5歳の歩夢ちゃん虐待死事件には続きがあった 床下にあった「もう一つの遺体」は一体、誰なのか? 主犯とされた「あおい」の奇妙な人生
警察は7月、母親(33)と、同居する男(32)を逮捕した。男は奈桜さんを暴行し、母親は体調不良を訴える奈桜さんを放置して、死亡させたとされる。2人は8月に起訴され、今後、裁判が開かれる予定だ。 事件には予兆があった。児童相談所は1年半前から虐待の兆候を察知し、2度にわたり奈桜さんを一時保護していたのだ。そのとき奈桜さんは「(男に)パンチされた」と話していた。だが一時保護はいずれも2~3カ月で解除された。 悔しさをにじませる捜査幹部、対応について考え続ける児相職員―。取材で浮かび上がったのは、自らはっきり証言するのが難しい子どもの被害を見抜くことの困難さだ。(共同通信名古屋支社編集部) ※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽保護しても、得られなかった虐待の証拠 奈桜さんが児童相談所に初めて保護されたのは2022年12月。母親の実家がある岐阜県本巣市から犬山市に転入した約3カ月後のことだった。この時期にはすでに、内縁関係にあった男が2人の住むアパートに頻繁に出入りしていたとみられる。通院時に医師があざを見つけ、児相に通告した。
奈桜さんが児相の聞き取りに「(男に)パンチされた」と話したため、児相は母親と男を別々に聴取。2人は互いの関係を「育児の手伝いをしてもらっている」「手伝いをしている」と説明したうえで、暴行を明確に否定したという。 その前月に、奈桜さんは救急搬送されていた。男と入浴をしている最中に溺れたためで、一時は呼吸が停止する状態だった。男は「振り向くとお湯の中に沈んでいたので、すぐに助け出した」と説明していた。 2022年12月の一時保護について、児相は、母親の安全管理が不十分であざができたと結論づけて、男が奈桜さんに会わないことを前提に翌2023年3月に保護を解除した。 しかし、わずか19日後に「左あごに小さなあざ」と保育園から通告があり、再び保護。ほかに耳のやけども確認されたが、母親は「(奈桜さんが)ドライヤーを当て続けてやけどした」と説明した。その後、警察、検察、児相の三者が協力して行う聞き取り「司法面接」を実施したが、その際も具体的な虐待の証言は得られなかった。児相は6月、再び母親の不十分な安全管理が原因だったと判断し、2度目の解除となった。