「亡くなって初めて体が語った」小1女児の全身にはあざが広がっていた 届かなかった訴え「パンチされた」。虐待予兆、2度の保護も救えなかった命
西沢さんは、子どもが本当のことを話さなかったり、医師が虐待の兆候を見落としたりする可能性があることを考慮する重要性を主張。これらの可能性を踏まえていれば最悪のケースを防げていたかもしれないとする。「別のストーリーも考えて調査をするのが児相の使命。母子の証言をうのみにしていたとすれば、素人判断だと言わざるを得ない」 ▽スマホに残されていた画像 奈桜さんが死亡したわずか3日前にも母子は児相と面談し、手をつないで帰る姿を確認されていた。それから間もなくして、奈桜さんは男から激しい暴行を受けたとみられる。母親と実家に帰省中に意識不明となり、命を落とした。119番したのは母親だった。 遺体の全身に広がるあざを確認した医師が岐阜県警に通報した。情報共有を受けた愛知県警は「要保護児童」の死に、真っ先に母親と男の関与を疑い、裏付けを進めて逮捕した。 ある捜査関係者は「7歳の子どもが内臓を損傷するというのはめずらしい所見で、腹部に人為的な強い力が加えられたことは明白だった」と振り返る。 愛知県警が押収した母親のスマートフォンには、あざのある奈桜さんの画像が複数残されており、それらの撮影時期は異なっていた。また、事件前に男とLINE(ライン)で交わした、あざに関するやりとりもあった。暴行が繰り返されていると推測させるのに十分な内容だった。
逮捕翌月の2024年8月、名古屋地検は2人を起訴した。起訴状によると、男は5月25日、自宅で奈桜さんの腹部を拳で複数回殴って外傷性十二指腸裂傷を負わせ、母親は腹痛を訴え嘔吐を繰り返していた奈桜さんを放置し、死亡させたとしている。 捜査関係者によると、男は警察の捜査段階で容疑を認め、しつけのつもりで行為に及んだとの趣旨の供述をしていたという。 ▽事件化の壁 捜査当局が子どもの被害を推察できても、証言がないと事件化が難しい場合も少なくない。 警察、検察、児相で協力して行う司法面接ではまず、暗示や誘導をせずに、うそは言わない、分からないことは「分からない」と言う、といったことを理解してもらうよう徹底する。 その理由について、ある捜査幹部はこう解説する。「司法面接では、最初は『これは何?』『あれは何色?』というような『イエス・ノー』じゃない質問をして、自分の言葉で話せるようになってから進める。言わせたのではなく、自分から話すものほど説得力がある」 ただ今回、別の幹部はこうも話した。「我慢強い子は、口止めされて言えないこともある。今回、亡くなって初めて体が語った」
そして、奈桜さんの胸中を推し量った。「一緒に過ごしていると楽しい、良い家族のときもきっとあったはず。離れたくない気持ちが強く、申告をしなかったのだと思う」 関係機関が予兆を把握しながらも、悲しい事件を防ぐことはできなかった。愛知県は、弁護士や医師らで構成する第三者委員会を設置。対応に問題がなかったかどうか、検証を急いでいる。 (取材=岸本靖子、小田原知生、諏訪圭亮、星野遼太郎、首藤瞬、中野湧大)