「亡くなって初めて体が語った」小1女児の全身にはあざが広がっていた 届かなかった訴え「パンチされた」。虐待予兆、2度の保護も救えなかった命
児相が保護した期間は2022年12月~2023年3月と2023年4月~6月だった。 通っていた小学校の校長によると、奈桜さんはほぼ欠席せずに登校していたという。 奈桜さんを知る上級生の中には「右頬にあざがあるときがあった」と気付いていた児童もいた。ただこの児童も「怖くて」言い出すことはできなかったという。 ▽把握できていなかった実態 児童相談所は2024年7月、2人の逮捕を受けて記者会見を開いた。「相談支援を行っていながらこのような事案が発生し、事態を重く受け止めている」と謝罪した。その上で、保護を解除した主な理由を説明した。 ・複数回の聞き取りでも、母子を引き離したままにしておくべき根拠が出てこなかった。 ・奈桜さんが「家に帰りたい」と何度も主張し、時に泣き叫びながら児相職員に抵抗した。 ・母親からのけがの報告を関係機関と確認したが、矛盾はなかった。 児相は2度目の解除後には母親と8度、面談を実施した。そして、けがをした場合は転倒といったケースでも逐一電話で報告し、経緯を説明するよう指導した。
実際に母親は指導に従い、児相に報告していた。後に児相は保育園や医療機関と照らし合わせて確認をしたが、傷の状態は説明と矛盾しなかったという。 一方、児相が把握できていない実態があったことも明らかになった。男は奈桜さんと接触しないと約束していたのに、引き続き3人で生活していたのだ。児相は住民票の登録が異なっていたことや、当初本人たちが同居を否定していたことなどを挙げて釈明した。男と面談できたのも最初の保護後の1度だけだったとした。 担当者によると、保護が通算で5カ月にも及ぶケースはまれだという。期間が示すように、児相内でこの件は「最重要度に近いもの」として扱っていた。それでも、事件は起きてしまった。 担当者はこう話した。「奈桜さんを守るのにあの対応(保護解除)以外の何かがあったのか。考え続けている」 社会福祉法人「子どもの虐待防止センター」理事で山梨県立大の西沢哲特任教授は、今回の児相の対応を「重大な出来事が軽く評価され、見過ごされた可能性が高い」と指摘する。