運転士不足に客の減少で存続危機の路線も多数! バス業界を取り巻く問題解決に立ちはだかる「古く時代に合わない規制」
旅客輸送業界のシンポジウムで見えたバス業界の現状
先日、主にバス事業に関する旅客輸送業界のシンポジウムに出席した。バス事業を取り巻く環境がコロナ禍以前より問題が山積するなか、運転士をはじめとした働き手不足、働き手不足に加えてコロナ禍も手伝い利用客の減少による減便や路線廃止など、とにかく明るい話題が乏しいなか、日々、市民の生活の足として路線バス運行を継続してきている人たちが集まり、さまざまな議論を行った。 【画像】廃止が決まった日本で唯一の無軌条電車「立山トンネルのトロリーバス」 新型コロナウイルス感染拡大が酷かったころでもライフラインの確保、そして感染拡大抑止という観点から、街なかを走る路線バスは通常運行を続けた。しかし、行動自粛が広く叫ばれるなか、そのころ利用者は激減、路線バスを運行する事業者は多大な負債を抱え込むこととなった。高速路線バスや貸切バスなどを専業的に運行する事業者でも、運休や稼働休止が続いたので状況は同じとなった。シンポジウムでは、「事業者が抱える債務はかなり大きいもので、再び新型コロナウイルス感染拡大のようなことが起きれば、廃業を余儀なくされる事業者が全国的に後を絶たない事態になる」としていた。 運転士など働き手の時間外労働を規制する「2024年問題」が今年4月以降顕在化している。そして、その傾向は地方だけではなく、首都圏ですら状況は似たようなものになっている。ただし、「時間外労働の規制や、改善されない運転士不足などの事情があり、首都圏最大手クラスのバス事業者でも路線バスの減便や路線廃止が目立ち、それをもって『大変だ』と騒ぎになっています。しかし、地方に目を向ければその傾向は2024年問題が顕在化する以前から大きな問題となっていました。そしていま、地方ではバス事業者自体の存続危機という、より深刻なフェーズに入っているといっていいでしょう」とは事情通。
都市部より地方のほうが路線バス復活の兆しあり
シンポジウムに参加し意見を述べたバス事業経営者はいずれも、業界では革新的な発想で企業経営を行っていることで有名な人ばかりであった。一般的には「昭和の香り」を引き継いでいるような保守的傾向の強いバス業界のなかにあっては、異彩を放っているといってもいいだろう。 都道府県庁所在地や地方の有力都市など、複数の事業者が乗り入れている地域では、程度の差こそあれ、競争状況にもあるともいえるので、事業者間の関係はけっして良好ではないというのは一般的な傾向。そのなかシンポジウムで聞かれたのが、同一地域内でのバス事業者間の連携強化である。すでにその事例は全国で多々見受けられるのだが、これは「いまの難局を一致団結して乗り切ろう」という流れだと筆者は理解している。 自動運転バスについても、数年先には一般市街地道路で導入予定するといった話がある。しかし、大都市の事業者は自動運転バスを導入したところで、「いまおかれているバス業界の問題」解決の糸口がつかめていないように見えるのが実情だ。むしろこの手の問題は、地方のほうが解決へ前向きに向かっている姿勢がうかがえた。 また、シンポジウムのなかでは、地方ではバスの需要が戻りつつあるというのである。地方都市といえば、生活移動手段ではマイカー依存度が高く、公共輸送機関は衰退の一途というのがお決まりのイメージであったので意外なものであった。 背景にあるのは、マイカー依存度の高い地方部でも、運転免許を取ろうとしない若者が増えているとのこと。シンポジウムでは「地方の大学に入学が決まれば、運転免許を取得してクルマで通学するのが当たり前のような時代があったが、いまはバス通学する学生が増えております。また、少子高齢化傾向は今後も続くので、運転免許を返納した高齢の人たちによる利用増も見込める」とのことであった。しかし、いままでのように需要が増えたから単純に路線や運行本数拡大とか、大型や連節バスの積極導入ということは、事業者の懐事情もあり現実的ではない。 いままでのようなバス車両では、運転免許の問題も出てきて、「働き手不足」が大きな壁となる。そこで普通運転免許で運転できるような車両で、しかも時刻表にとらわれない、需要のあるときにだけ運行する「オンデマンドバス」のようなスタイルでのサービス拡大を模索すべきとの意見も出ていた。 少子高齢化が進むのは都市部でも同じ。全国津々浦々高齢化は進んでいくのだから、公共輸送機関利用回帰の傾向は全国的に同じといえるだろう。しかし、いまのペースではかなりの地域で公共交通機関(とくにバス)空白地帯というものの発生も危惧されている。 そのなかで提案されたのが、いまのタクシー会社主導ではなく、まさにご近所で協力し合うようなライドシェアサービスの実現である。マイカーをもっているご近所さん同士でマイカーのシェアリングを行うというものである。需要が回帰したからといって、バス事業者に運行拡大を要求するのではなく、利用者サイドで自力による輸送手段を確保するということも今後は必要かもしれない。 いろいろと斬新なアイディアが出てきたが、それを阻むのがさまざまな規制である。安心・安全な運行を確保することには必要なものだが、多くは日本が現役世代で溢れ、まだまだ元気で「これからまだまだ成長する」といった時代に整備されたものも多いので、いまの日本の身の丈にあったものへ変えていくことも大切なことであると感じた。
小林敦志