メスだけでゴキブリが増えるのはなぜ? 昆虫たちの仁義なき繁殖戦略
生殖方法を切り替えて「いいとこ取り」
リスクヘッジを取ることができる代わりにコストのかかる有性生殖、短期的な成功が見込めるが全滅のリスクを伴う単為生殖、どちらが有利と言えるでしょうか?「時と場合によるんじゃない?」と思われた方、大正解です。具体的には環境が好ましい条件のまま安定していれば単為生殖が、厳しく不安定ならば有性生殖が有利になります。「有性生殖と単為生殖、切り替えることができれば最強じゃない?」と思われた方、大正解。まさにそのような昆虫が実際にいます。
アブラムシ(アリマキ)の仲間は、春から夏にかけてはメスが単為生殖の卵胎生によって自分自身のクローン(メス)を産み続けます。しかも、生まれてきた子どもはすでに胎内に子を身籠もっています。こうして居心地の良い季節には爆発的に増え続けますが、秋になるとこのメスたちは オスも産むようになり、有性生殖に切り替わります。有性生殖で生まれた卵は冬を越し、春に孵化しますが、これはすべてメス。そしてまたクローンを産み続け……というサイクルを繰り返します。
このように有性生殖と単為生殖を切り替える昆虫は他にもナナフシやカイガラムシの仲間などがいます。そして今回話題になったゴキブリもそれが可能なのです。
「有性」と「単為」どんな条件で切り替える?
北大のグループが発表したゴキブリの単為生殖ですが、ゴキブリが単為生殖すること自体は実は以前から知られていました。有性生殖と単為生殖を切り替えるという点ではアブラムシとゴキブリは同じなのですが、単為生殖への切り替えの条件が両者で大きく異なります。 アブラムシの単為生殖は季節変化を感じ取って発現するのに対して、ゴキブリの単為生殖はオスがい居ない環境で発現するようなのです。実験の結果、「メス1匹、あるいは交尾できなくしたオスと一緒にした場合に比べ、メス3匹を一緒にすると卵鞘(らんしょう=16個の卵をひとまとめにした堅い殻)の形成が最大限に速くなる」ということが分かりました。ゴキブリ視点で言い換えれば、「まわりに女友達がい居れば、男なしでも産みまくるわ!」といったところです。