光のみで作るブラックホール「クーゲルブリッツ」は生成不可能
■関連実験がシュウィンガー効果の実証に繋がるかもしれない
今回の研究が正しい場合、例えば、実験室で強力なレーザーを集中させることでクーゲルブリッツを生成し、ブラックホールの性質を直接探るような研究はできないということになります。これは、物理学者にとって残念なニュースかもしれません。 今回計算されたエネルギーの値はかなり高いため、当面の間はクーゲルブリッツが本当に合成できないことを実験的に確かめることはできないでしょう。ただしそれでも、クーゲルブリッツ生成実験に近い環境を整えることで、未だに観測されたことのないシュウィンガー効果については、近い将来に観測できるかもしれません。かつては必要な電場や磁場が強すぎるために実証できないとされていましたが、現在の最も強力なレーザーは、シュウィンガー効果が現れる値の約1000分の1に迫っています。 Álvarez-Domínguez氏らは、たとえ今回の研究が実験的に証明できなくても、関連する実験を通じて、実証が強く望まれているシュウィンガー効果は近い将来に観測できるのではないかと期待しています。
■注釈
※1…質量とエネルギーの等価性は、一般相対性理論より前に提唱された特殊相対性理論で示されていますが、特殊相対性理論は一般相対性理論に内包されます。一方でブラックホールは一般相対性理論の提唱後に初めて予言されたため、本記事ではこのような表現とさせていただきます。 ※2…後の時代の1967年に、ブラックホールという名称を世に広めた人として知られています。勘違いされることもありますが、ホイーラーは名称を広めた人であり、本人も否定しているように名付け親ではありません。 ※3…重力波も質量がゼロであるため、理論的にはジオンを生成可能です。このため重力波によるジオンを「重力ジオン(Gravitational geon)」、光(電磁波)によるジオンを「電磁ジオン(Electromagnetic geon)」、または「クーゲルブリッツ」と呼び分けることもあります。 ※4…人工的に達成可能な最大の電圧は10の15乗V、自然界で最も強力な電場を生み出すマグネターでも10の19乗Vが限界です。 ※5…人工的に達成可能なレーザーの最大強度は1平方cmあたり10の23乗Wであり、56桁もの差があります。超新星爆発やクエーサーの周辺であっても、これほどのエネルギー密度となる場はありません。 ※6…なお、10の53乗ジュールのエネルギーに相当する質量を持つ「超大質量ブラックホール」は多数見つかっています。ただしこれはクーゲルブリッツではなく、恒星の中心核の崩壊で生じる、もっと小さなブラックホール同士の合体で生成したものであると考えられています。 ※7…例外として、エネルギー密度が極端に高かった誕生直後の宇宙では、重いクーゲルブリッツが生成される可能性があります。ただしこのような環境の理論的な検討は極めて難しいこと、現在の宇宙にある超大質量ブラックホールの正体が、重いクーゲルブリッツではないと考えるのが妥当だという現状から、Álvarez-Domínguez氏らも詳しくは検討しておらず、論文の結論でも触れていません。 Source Álvaro Álvarez-Domínguez, et al. “No black holes from light”. (Physical Review Letters) (arXiv) Philip Ball. “Black Holes Can’t Be Created by Light”. (Physics) John Archibald Wheeler. “Geons”. (Physical Review) G. P. Perry & F. I. Cooperstock. “Stability of gravitational and electromagnetic geons”. (Classical and Quantum Gravity)
彩恵りり / sorae編集部