家政婦訴訟で浮き彫り「労基法なき職場」の過酷、自民党総裁選でも議論浮上した「働き方改革」否定の禍根
それを仮に労使合意があっても上限を年720時間(月平均60時間)に規制するなどの歯止めが、罰則付きの法律として定められた。当初、長時間労働の実態があまりにひどく、この上限規制の適用が5年間猶予されてきた、ドライバー、建設業、医師の3業種にも紆余曲折がありながらも今年4月から適用されるようになった。 ■ようやく健全化に踏み出したはずだが ドライバーと医師の残業上限は年960時間、一部の医師に至っては最大で年1860時間まで残業が認められるなどまだまだ残る課題は少なくないが、ようやく健全化に向けた一歩を踏み出した矢先といえる。
当時の安倍政権が労働時間規制の強化へと舵を切ったのは、「長時間労働の改善が一向に進まず、子育てや介護など家庭生活と仕事との両立が困難になっている」「うつ病などによる労災の請求件数が増加するなどメンタルヘルスの問題は深刻化している」といった時代背景があった。そしてターニングポイントとなったのは、当時大きく社会問題化された過労自殺した広告最大手・電通の新入社員の労災認定だ。 その後、コロナ禍を経てリモートワークが定着するなど、業種によっては働き方の多様化が進んできたのは確かだが、ようやく緒に就いたばかりの労働時間の規制強化の方向性を180度転換するような小泉、河野両氏の唐突にも思える発言の背景には何があったのか。
彼らの主張と近いのが、新経済連盟(代表理事=三木谷浩史楽天グループ社長)が今年6月に発表した、「労働基準法等の見直しに関する提言」だ。「労働者は弱く、守られるべきもの」という旧来の発想から脱却し、意欲ある労働者が「時間」に縛られず働くことを可能にするとの趣旨で、ホワイトカラーの新たな労働時間制度(仮称:ホワイトカラー・オプション)を創設するという。 具体的には、広くホワイトカラーを対象に裁量労働制を拡大し、さらに使用者の時間管理義務こそ残すが、労働者の裁量・自己責任で労働時間を管理する制度への見直しを行うというものだ。「たくさん働きたい人にとって労働時間規制は障害になる」という会員企業などからの意見を踏まえ、「労働者個人の意思」による選択が可能な労働時間制度への変革が求められるとしている。