学んだ知識だけでなく「学ぼうとする力」が大切ICTは子供たちに欠かせない――教職員支援機構 理事長 荒瀬 克己氏インタビュー
中央教育審議会(中教審)は2024年8月27日、文部科学大臣に対して「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」を答申した(右ページ写真)。教職員の資質・能力の向上をミッションとする教職員支援機構(NITS)の理事長で、中教審会長を務める荒瀬克己氏に、GIGAスクール以降の時代に求められる教員の役割について聞いた。 ──中教審の答申では、「ICTは学校現場に必須のもの」という指摘がありました。学校教育におけるICT活用の現状をどう見ていますか。 教室に子供たちが集まり教員が教えるという学校の在り方は、明治時代に近代の学制が始まってから150年以上にわたって大きく変わっていません。答申でも触れたように、教育の本質は教師と子供たちとの人格的な触れ合いにあり、単なる知識や技能の伝達にとどまりません。教育を受ける者の人格の完成を目指し、その成長を促す営みです。 教育基本法が規定する「人格の完成」という目的が、日本の学校教育の軸になっています。その太い軸が学びの中心にあるため、学校は新しいことを取り入れたり古いものを廃止したりしにくいシステムになっています。 学校は前例踏襲の文化が色濃く、急激な変化に不安を感じがちです。GIGAスクール構想では1人1台の学習者用端末と校内ネットワークが整備されましたが、同時期のコロナ禍という外的要因がなければ、ICT環境を活用する機運はそれほど盛り上がらなかった可能性もあります。 ──GIGAスクール構想から4年がたち、第2期に入ろうとしています。子供たちの学びは、どう変わったでしょうか。 1人1台端末が整備されたことで、子供たちの目の前には巨大な図書館が現れ、世界中の蔵書にアクセスできるようになったと言ってもよいでしょう。協働的な学びでも、子供たちがさまざまな所で得た知識をお互いに持ち寄り、統合して考えたり取捨選択したりしやすくなりました。クラウドを活用することで、他者の考えも参照できるようになりました。他者とコミュニケーションを取るためのツールとしても、ICTは大きな役割を果たしています。 授業の様子も変わり始めています。端末を最大限に活用して、単元の中でどのような学び方をするかを子供自身に任せる「単元内自由進度学習」を取り入れる学校が増えています。ほかの子たちの学び方を参照したり先生に相談したりして、子供自身が誰と話すか、誰と学ぶかを判断するやり方は、一斉授業での規律を重視した授業観を大きく転換する大胆な試みと言えます。 教師が一斉に教えたり、ドリル学習に取り組んだりすることで、知識を効率的に身に付けることが重要だとする考えが根強くあります。しかし、これからの社会がどのように変化するかは誰にも分からず、過去の経験や知識がそのまま使えるとは限りません。むしろこれからは、教科の知識を使いながら、どう学んでいくのがよいのかという、「学び方」を身に付けることが大事です。 現代の子供たちは膨大な情報の中で生きていきます。さまざまな情報に接して学びを深めるには教科書だけでは限界があります。そこで、多様な情報にアクセスできるICTが必要になります。子供たちは、そして教師もまた、情報の真偽を確かめつつ、他者とも協働して自ら学びを深めていくことが重要になります。情報活用能力ですね。