学んだ知識だけでなく「学ぼうとする力」が大切ICTは子供たちに欠かせない――教職員支援機構 理事長 荒瀬 克己氏インタビュー
「学ぼうとする力」に役立つICT
──以前から、「コンピューターを使って学べば学力が上がるのか」といった疑問が呈されています。今のところ、全国学力・学習状況調査(学調)の正答率が上がるといった成績に関する報告はないようです。 単元内自由進度学習によって学調などの成績が落ちているのではないかという声はあります。自治体をはじめ、日本の社会は順位や成績を気にしすぎる傾向があります。目の前の成績が気になるのは分かりますが、大切なのは「これからの社会で生きていくために役立つことは何か」ということです。 学力という言葉を考えるとき、この熟語の個々の要素、つまり「学ぶ」と「力」の間に言葉を補う必要があると思います。教室で学んだり本を読んだりして得た知識は「学んだ力」です。これに加えて、学んだことを組み合わせて活用できる「学ぶ力」も必要です。 もう一つ重要なのは、「学ぼうとする力」です。今はまだ十分な力を持っていない人でも、学習意欲が高ければ、その人には大きな将来性があります。社会の場面では、学ぼうとする力を持っている人が強いのです。 「学んだ力」「学ぶ力」「学ぼうとする力」の3つを合わせて学力だとする考えがあります。生きるための学力とは何かということでしょう。学ぶためのスキル的なものも含めて、ICTの活用は役立つと思います。 ──生成AI(人工知能)が使われるようになり、授業で活用する学校もあります。生成AIは、質問をすると何でも丁寧に解説してくれます。こういう時代では、教員が果たす役割も変わるはずです。 これまでの教員の仕事は知識や技能を教えることでした。これからは「子供たちが学び方を身に付けるための学び」を展開できるよう工夫して支えることが中心になります。 2021年1月の中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」では、「自立した学習者」の育成を念頭に置きました。単元内自由進度学習は、子供たちが自律的に学びを深めて自立した学習者として育つための方法の一つです。学びを押し付けるのではなく、子供の興味や関心に応じて学びを深めていけるように授業をデザインしていく。つまり、教員にはコーディネーターあるいはファシリテーターとしての役割が求められます。 ──多くの教員は、そのような授業の経験がなく、教育も受けてきませんでした。NITSは、どのようにして教員をサポートしていきますか。 子供の学びを変えるには、教員自身の学びも変わる必要があります。これまでの教員研修は、どちらかといえば知識の習得や技術の向上に重きを置いていました。大学の先生に来ていただき、集まった教師が講義を聞くという研修です。 それらが全く必要ないとは思いませんが、教員自身がわくわくしたり楽しんだりして探究的な学びを実践しなければ、子供を探究的な学びに導くことはできません。教員の学びと子供の学びは「相似形」です。NITSの研修も、参加者同士が対話する時間や振り返りの機会を多く設け、豊かな気付きの醸成を重視する形に転換しているところです。 初出:2024年10月11日発行「日経パソコン 教育とICT No.30」