作家を目指すドローン撮影の第一人者 カメラマン・妹尾一郎氏 100歳時代の歩き方 私の後半戦
ドローンという言葉もあまり知られていないころです。あんな映像は当時ほとんどなくて、スタッフも驚いていました。視聴率もとても良かった。
《誘ってくれたカメラマンの生き方にも感化された》
温かい人なんです。もともと報道カメラマンで、黙って世界の戦災孤児に寄付をしていた。病を抱えたまま世界を撮り、亡くなったのですが、彼はいつも「好きなことだけをして過ごした一生より、苦しくても辛(つら)くても、人としてするべきことをしたという一生でありたい」と言っていました。おもしろおかしく生きてきた僕は衝撃を受けた。自分は人としてすべきことをしてきたのか? 人生をリセットしようと決めました。
■自分のことを書いて
《社長業を譲り、トルコのシリア難民キャンプに足を運び、寄付をした》
彼とのことを残しておきたくて、文章なんて書いたこともないのに『ドローンマン』を一気に書き上げ、出版しました。「感動した」という声をいただき、自分の人生を肯定されたようで僕自身が感動した。それに、書くと人の心の奥底まで考えるようになる。気づけば書くことに、駆け出しカメラマンのころと同じような、がむしゃらな情熱を傾けていました。図書館で本を読みあさって勉強し、応募してはボツやダメ出しの連続。やっと準大賞受賞で、出版準備にまでこぎ着けました。
《後半生は小説家に向けて走り出した》
僕は心配性で用心深い。その心配の種が本を書いたらなくなった。自分にとって何が大事で何が不要か分かったからです。人生の後半戦が不安な方、自分のことを書いてみたらどうでしょうか。
(聞き手 小川記代子)
妹尾一郎
せのお・いちろう 昭和36年、山口県生まれ。日大芸術学部卒業後、マガジンハウス「anan」でデビュー。ファッション誌を中心に活躍、ドローン撮影のエキスパートでもある。著書に、小学館ノンフィクション大賞の最終候補に残った原稿を出版社に持ち込んだ『ドローンマン』(イースト・プレス)。