男性はなぜ強がってしまうのか?小説家・白岩玄さんと考える、福田フクスケの「やわらかジェンダー塾」
女性のコミュニケーションでは、相手を気遣って「自分の弱さ」を見せることが多い
――「強さの毛布」にくるまず、ナイーブな感情をそのまま話すようにすることは難しいのでしょうか。 福田さん:まず、自分の弱さを男性に伝えたときに、そのまま受け止めてくれるという期待ができないんですよ。僕が弱みを見せる相手はどうしても妻ばかりになってしまう。それは悪いことではないと思いますが、男性同士の「強がる」コミュニケーションの反動で、女性であるパートナーにしわ寄せがいっているのかもしれない、と考えることはありますね。 白岩さん:弱みを見せられるのが妻だけというのは、僕も同じですね。女性のコミュニケーションでは、開示や共感が重要視されているような気がするんですよ。男性と違って、ナイーブな感情でも割とそのまま話せるし、受け止めてもらえるというか、「強さの毛布」でいちいちくるむ必要がない。だから同性を相手にしたときよりも、弱みを見せやすいのかもしれません。 ――女性同士で話していると、相手を気遣うために、あえて自分の弱さを見せる、ということも多い気がします。そうすることで共感の意を示したり、相手も自分の悩みを話しやすくなるんじゃないかなと。「強さの毛布」にくるむのか、「弱さを見せる」のか、話す相手によって違うけれど、相手を気遣うという根本の構造は、実は同じなのかもしれませんね。 福田さん:女性は「弱い」に合わせることで、男性は「強い」に合わせることでお互いをケアすることが多い、ということですね。 ただ、これは妻が言っていたんですけど……。「男性は女性が相手だと、無意識に女性が下手に出てくれることを期待している気がする。こちらが下手に出ないで対等に接すると、ギョッとしたりムッとしたりされることが多い」と。特に自分が強くいられない状態のとき、この状態になっている気がします。僕たち男性は、女性の「弱さの毛布」を当てにしすぎているのかもしれない。 白岩さん: 無意識に女性が下手に出てくれることを期待しているっていうのは、本当にそのとおりだという感じがしますね。同性同士でなかなか強さを手放せない男性は、特に弱っているタイミングでは、男性同士の「強がり」に合わせるのがしんどくなる。そうすると感情の行き場がなくなって、自分が弱いままでも受け止めてくれる女性とのコミュニケーションを求めてしまう、ということなのかも。本当は、ナイーブな感情について男性同士でも明かし合えたほうがいいと思うんですけど。 福田さん:せめて、いきなり男性同士で弱さを見せ合うのが難しくても、自分たちのコミュニケーションにあるのは「強さ」ではなく「強さの毛布」であるということに意識的でいたいです。男性社会には「弱さ」を感じないように、麻痺させてくる仕組みがたくさんありますから。 白岩さん:「強さの毛布」で「弱さ」をくるんでやりとりしていることを自覚するのは重要かもしれませんね。でも、僕も毛布がないと未だに不安にはなるんですよ。弱さを剥き出しで扱うことに慣れてないし、男社会の中で不用意に弱さを見せると、相手を気まずくしたり、つき合いづらい印象を持たれることも多いから。だから尚更、目を背けたくなるというか。 福田さん:社会で生きていくうえでは、不利になることに自覚なんてせずに、麻痺させておくほうが都合がいいですもんね。そこに気づいて抜け出そうとすることが第一歩とは思いつつ、自分ができているかというと難しい……。 白岩さん:弱いままの自分でいることができたら、本当はもっとラクに生きられるのかもしれませんね。他人とのコミュニケーションにも、もう少し幅が出てくるかもしれないし。息子を見てると、まだ子どもだからというのもあるんですが、強がりながらも弱さをたくさん持っていて、あれくらいのバランスになれたらいいのにな、とうらやましくなるんですよ。ナイーブな感情をそのまま話せる心の強さを自分も身につけたいなと思います。 福田さん:いじったり茶化したりするコミュニケーションに救われることも確かにあるので、それが一概に悪いものと言えない側面もあると思います。でも、それはあえての「強がり」だという自覚は必要ですよね。「強さ」と「弱さ」のバランスを取れるように、女性に「弱さ」のコミュニケーションを押し付けるのではなく、まずは男性同士で「弱さ」の開示を受け止められるようにしたいと思いました。 編集者・ライター 福田フクスケ 1983年生まれ。雑誌『GINZA』にてコラム「◯◯◯◯になりたいの」、Web「FRaU」(講談社)・「Pen」(CCCメディアハウス)などでジェンダーやカルチャーについての記事を連載中。田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など書籍の編集協力も。その他雑誌やWEB、書籍などでも幅広く活躍中。 小説家 白岩玄 1983年生まれ。2004年『野ブタ。をプロデュース』で第41回文藝賞を受賞し、作家デビュー。近著の『たてがみを捨てたライオンたち』では、現代の男性を巡る“男らしさ”や“生きづらさ”を、『プリテンド・ファーザー』ではシングルファーザーの育児を通して、男性のケアとキャリアについて描いている。山崎ナオコーラさんとの共著に育児エッセイ『ミルクとコロナ』がある。 イラスト/CONYA 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)