ソースカツ丼の元祖論争、ルーツは東京・早稲田、そして遠くドイツに
ソースのレシピは企業秘密だ。東京・早稲田の時代は、調味料製造の「ブルドックソース」にレシピを開示して作ってもらっていたが、福井で店を開いてからは同じレシピで「イカリソース」に製造を依頼し、今に至る。レシピは変わらないという。同じソースでも、トンカツソースでは、ソースがカツに染みない。ウスターソースだからこそ実現できるソースカツ丼の食感と香りだ。 「酸味や甘さ。ご飯にかけておいしいソースなんですよ」。 ソースカツ丼は、白米とカツとソースが一つの丼に盛られる。だから、すべてが一体でないといけない。あつあつのご飯は、すべて福井産コシヒカリといきたいところだが、コシヒカリはもっちりとして食感はいいものの、それだけでは米粒がソースを弾いてしまう。その食感をコシヒカリで残しながら、炊きあがりにソースが絡む同県産のハナエチゼンをブレンドする。 「ご飯にかけておいしいソース」というのは、ソースの味だけではなく、ご飯そのものにも工夫が必要なのだ。そういえば、銀座の龍さんも「福井の食べ物というのは、どうやってごはんをおいしく食べるか」だと言っていた。 ヨーロッパ軒は、敦賀店などのれん分けを進め、いまでは県内に19店舗を構えるが、県外には店を出していない。高畠社長は「ありがたいことに、他県の方から、出店しないかと声をかけていただくのですが、出さないのがポリシーでして。もっとも東京の物産展には出させていただくのですが」と申し訳無さそうに話す。 どうも水の違いで、旨味に違いが出るらしい。そう言われれば、そんな気もする。「福井は米も水もおいしい。だから福井に来てもらいたいという気持ちがあります。ご飯もソースもカツもおいしい状態で召し上がっていただきたいのです」と高畠社長は胸をはった。 遠く100年前、大正時代に日本に持ち込まれたドイツ料理が、福井料理として根付いた。「ナイフやフォークを使わずに西洋料理を食べてもらいたい」。カツに箸をつけると、甘酸っぱいソースの香りとともに、高畠増太郎の思いが伝わってくるようだった。 (※1)山梨県の石和温泉は昭和36年(1961年)に始まったとされるため、年代的に齟齬があるが、高畠増太郎自身は「石和温泉」で勤めていたと話していたという。現在の石和温泉の場所を指すのか、増太郎自身が思い違いをしていたのかは定かでない。 取材協力:福井県ゆかりの店 in 東京 ----------------- 店名:龍 (タツ) 住所:東京都中央区銀座8-2-8 高坂ビル B2F 電話:03-3571-3800 定休日:土日、祝日