トランプ氏、「就任初日は独裁者になる」 頭にある5つのテーマ
3:移民、強制送還
トランプ氏は10月下旬にニューヨーク市で開いた選挙集会で、「初日、米国史上最大の強制送還プログラムを開始し、犯罪者を追い出す」と宣言した。トランプ氏は「敵性外国人法」の活用に言及している。1798年に制定され、戦時下に侵略や略奪を受ける恐れがあるとき、外国人を国外退去させられる。第2次世界大戦時、日系人が対象となった。法律上の問題が指摘されており、実際に運用しようとすれば裁判所が立ちはだかる可能性がある。 法的根拠だけでなく、そもそもマンパワーが追いつくのかが不透明だ。AP通信によると、過去最高の強制送還件数は13年のオバマ政権下の年43万2000件で、トランプ氏の1期目では年35万件を超えたことはない。米移民評議会は、年100万人の不法移民を送還するには年880億ドルの費用がかかると試算している。米国の不法滞在者は約1100万人にも上るとされる。 冒頭の通り、トランプ氏は国境封鎖にも言及している。「メキシコ待機制度」の復活があり得る。トランプ政権1期目は、米国に入国を試みた難民申請者が、その審査をメキシコで待つという制度を設けた。バイデン政権は紆余(うよ)曲折を経て最終的に終了させたが、これを復活させる可能性がある。バイデン政権下では、難民申請中の移民は一定期間が経過すれば米国内で働くことができ、好調な米経済を支えてきた。移民流入が減少すれば、米国に拠点を持つ日本企業の労働コスト上昇につながり得る。 加えて物議を醸しているのが、アジェンダ47の「初日に不法移民の子供に自動的に米国市民権を与えることを停止する大統領令に署名する」という項目だ。憲法修正第14条で明記されたルールの変更に該当する可能性があり、多くの専門家は大統領令では変更できないと見ているという。 ●4:関税強化 トランプ政権1期目は18年以降、通商法232条に基づく鉄鋼とアルミニウムの関税と、同法301条に基づく対中国関税の第1弾から第4弾を導入した。この関税はバイデン政権にほぼ継承され、24年6月時点で301条に基づく制裁関税は7.5~25%だった。バイデン政権は9月末、EVへの関税を100%に引き上げるなど関税を強化した。 301条は不公正な貿易慣行を持つ他国を対象にした条項だ。米国野村証券の雨宮愛知氏は、「対中関税は、既に適用除外品目の設定など枠組みができており、手を付けやすい」と指摘する。ある米国の税法に詳しい関係者は、対中関税を初日に引き上げて、米国第一の象徴とする可能性を指摘する。 一方、トランプ氏は中国以外の他国への10~20%の関税導入も掲げている。アジェンダ47は、相手国が米国製品にかけている関税と同等の関税を導入する「相互貿易法」の成立を目指すとしている。法律であれば議会の承認が必要になるため、初日とはいかなさそうだが、トランプ陣営は議会承認を迂回して関税を導入する手段も錬っているようだ。 ●5:ウクライナ問題も「初日」 他にも初日に実施すると宣言したテーマには、2021年の連邦議会議事堂襲撃事件の裁判を担当するジャック・スミス特別検察官の解雇(2秒で実施すると述べている)やトランスジェンダーの教育に関わる制度変更などがあるが、国際的に影響が大きいものは、ウクライナ問題だ。トランプ氏は初日、または就任前にウクライナとロシアの戦争を解決すると語ってきた。トランプ陣営は初日のテーマとして、「ウクライナとロシアを交渉のテーブルに着かせ、戦争を終わらせることも含まれる」としている。実現するかは別にして、長期化する対立にくさびを打ち込むタイミングにはなり得る。 実際に初日に全てを出し切るかは分からない。上智大学の前嶋教授は、初日に出てくる大統領令として「国境管理と化石燃料の掘削。まず2つで、加えて関税なども出てくるかもしれない」としつつ、「一気に出すより、部分的に出していくことで『見た目』も演出するだろう」と話す。トランプ氏の動きは予測が難しいだけに、初日から注目する必要がある。
鷲尾 龍一