自動車会社の決算書の読み方教えます
2023年4月~24年3月(以下、24年3月期)の国内乗用車メーカー7社の決算が出そろった。最近は自動車メーカーの決算に興味を持つ人も増え始めているので、「ちょっと自分で読んでみよう」という人のために、参考になりそうな補助線を引いてみたい。 【関連画像】所在地別営業利益(出所:トヨタ) まずは、当該期の自動車メーカーの事業背景から説明しよう。そもそも決算とは前年度との比較を行うものなので、前の期がどういう状況だったかを頭に入れておかないと数字が意味するところを読むことができない。 後で詳述するが、例えば、22年4月~23年3月(23年3月期)は半導体不足や部品不足、部品を輸送する船舶の不足などの影響で、各社とも生産ラインが止まることが多かった。 なので24年3月期の生産台数が、問題のあった23年3月期並み、つまり100%だとすれば、それはかなり厳しい数字である。様々な不足が解消されたのだから、当然のごとく増えているべきなのだ。 では、絶対的にはどの程度の生産台数が合格ラインなのか? と疑問を持たれる方もいるだろう。一般的には直近5年くらいの数字と比較する。ただし、短期的な、あるいはマクロ的な要因で業界全体の経営が悪化していたり、あるいはヒット車種が出るなど個社としてバブル的好景気にあったりするので、どこを合格ライン、つまり本来の実力値にするかの判断は案外難しい。 ●自動車各社の決算の読み方 つまり、「決算書を読む」ということは、売上高、販売台数、利益などの数字の変化の理由を、1:マクロ的な事象による業界全体が受けた影響、2:ミクロ的な、その企業特有の事情による影響 に分解して論じる、ということになるだろう。本稿では主に1について触れつつ、トヨタの決算書を使って24年3月期の決算書の見どころを読み解いていく。 マクロ的事象の影響といえばまずは為替である。1ドル=160円台の記録的円安というニュースが駆け巡った通り、海外販売が多いメーカーにはそれなりの為替差益が発生している(海外で売るクルマの価格が変わらなくても、円に換算した金額が円安によって増えるため)。 ただし、各社の数字を見ると、その差益は決算全体からみて極端に大きな影響を与えるものではない。上で述べた通り、期首にはすでに150円水準にあり、差額の最大値で比べてもせいぜい10円ほど(160÷150=約6.7%)だからだ。 円安はすでに2021年には始まっており、直近で最も円高だった同年1月あたりの103円前後から3年をかけて上がってきた。3年前の103円と比べれば160円はすさまじい円安だが、当初の2年分は当該期の決算には関係ない。期内の1年間の差分だけが影響するのだ。期間内の円の下落に限っては各社好決算の一因ではあるが、大手メディアの一部報道で見られるような「円安が好決算の主要因」であるかのような見出しは、いささか本質から外れているように見える。 そもそもの話として、円安は製造業にとって、必ずしもプラス要因ばかりではない。中学の社会で「日本の産業構造は加工貿易型である」と習った方も多いと思うが、最終製品は円安の恩恵を受けても、輸入に頼る原材料では逆に為替差損が発生する(原材料の値段が高くなる)。最終製品の方が付加価値が高いので、トータルではプラスに収まるものの、円安が製造業にとって丸もうけ、という現象ではないことは理解しておくべきだ。 さて冒頭に書いた通り、24年3月期の終盤で、半導体、その他の部品、輸送船の不足は大きく解消された。それまでの間メーカーは生産が追いつかず、結果として受注残を抱えてきたので、供給の制約が解除されると同時にボーナスステージが始まった。ざっくり考えて、すでに買い手が付いている受注がたくさんあるわけなので、つくるそばから利益になる。 ただしそこで難しいのは、受注残の中には供給不足を見越したディーラーの見込み発注も含まれることだ。受注残の内どの程度が本当にユーザーの注文がついていて、どの程度が店頭在庫分なのかは分からないが、店頭在庫が多ければマーケットに商品がダブつくことになる。