イチローは異例引退会見で何を語ったか(最終)「メジャーは頭を使わなくてもいい野球になりつつある」
――神戸への思い、恩返しは? 「僕にとって神戸は特別な街。恩返しって何することですかね? 選手として続けることでしか、それができない、と考えてきたこともあって、できるだけ(長く)現役を続けたいと思っていたところもある。それと……税金が少しでも払えるように頑張ります」 ――メジャー挑戦制度に意見は? 「制度に関しては詳しくないが、日本で基礎を作る、将来、MLBでプレーするための礎をつくるという考えであれば、できるだけ早くというのもわかるが、日本の野球で鍛えられることはたくさんある。制度だけに目をむけるのはフェアじゃない。基礎の動きはメジャーよりも日本の中学レベルの方がうまい可能性だってある。それはチームとしての連携を言わなくても日本ではできる。メジャーは個人のポテンシャルは高いが、そこには苦しみましたよ」 すでに時計は午前1時を回った。会見時間は1時間20分を過ぎる。 イチローは「お腹が減ってきた。けっこうやっていないですか? これ? 1時間20分?今日は、とことん、おつきあいをしようと思ったんですが、お腹が減ってきちゃった」と言って会見場に笑いを呼び、独特のユーモアで司会者に会見終了を促した。 司会者は、あと二人で終わりにさせて下さいと言った。 ――小学生時代の文集に将来一流のプロ野球選手になると書いていた。それを書いた当時の自分へ一言? 「おまえ契約金1億円ももらえないよって。夢は大きくというが、なかなか難しい。ドラ1の1億と掲げたが遠く及ばなかった。ある意味では挫折です(笑)」 これが最後の質問だったが、イチローは、「こんな終わり方でいいの?なんか、最後はきゅっとしたいね」と、異例の“アンコール”をした。 ――昔は孤独感を味わったと語っていた。それはずっと感じていたのか? 今は? 「現在、それはまったくない。少し(質問と)違うかもしれないが、アメリカ、メジャーに来て、(彼らからすれば)外国人になったことで、人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れた。それは本を読んだり、情報をとることはできても体験しないと生まれない。孤独を感じて苦しんだことも多々あった。その体験は、未来の自分にとって大きな支えになると今は思う。辛いこと、しんどいことから逃げたいと思うのは当然。でも、エネルギーのある元気なときに、それに立ち向かっていくことが、人として重要なことではないか」 イチローは、そうカッコよく決めると、「締まったね、最後。いやあ、長い時間ありがとうございました。皆さんも眠いでしょう。じゃあ、そろそろ帰りますか」と、続けて、1時間23分にわたる引退会見に終止符を打った。200人を超えるメディアからは大きな拍手が起き、イチローは礼儀正しくお辞儀をして会場を去った。