「親兄弟を空襲で失い、無戸籍のまま80年生きた」専門家も驚く戦争孤児、令和に実在?わずかな情報を頼りに探した記者が出会ったのは…(前編)
「金田さんでもできなかったのに、あなたにできるの?」 ▽ようやくヒントが…炎天下ホームレスに声をかけ続ける 私には「Aさんはホームレスなのではないか」という予感があった。無戸籍ではまず家を借りることができない。支援者に最初、Aさんの暮らしぶりを尋ねた時、言葉を濁されたことも気にかかっていた。 そこで首都圏に拠点を置くホームレス支援の民間非営利団体(NPO)などに情報提供を求めた。やはり手がかりは得られない。それどころか、何かを警戒されたのか折り返しの電話すらかけてくれない団体もあった。 取材は完全に「詰んだ」状態になった。ところが、金田さんの死から2週間がたった頃、思わぬところからヒントを得た。 この件とは別の取材で会った福祉関係者から、首都圏の団体が援助している、あるホームレスの男性の話を聞いた。無戸籍で、空襲で両親を亡くしたという。 この福祉関係者も男性を直接知っているわけではない。ただ、断片的な情報を二つだけ持っていた。
①橋の下で暮らしている ②何かの工事で居場所を追われた これだけではまだ何とも分からないが、少しだけ光が見えた気がした。首都圏のあらゆる「橋の下」をとにかく探し回ろう。そう考え、まずは河川事務所などに残るここ数年間の工事記録をたどり、河川敷周辺をピックアップした。季節は真夏。革靴をスニーカーに履き替え、歩き始めた。 とにかく行ってみることだ。そう思ってたどり着いたある河川敷で、休憩中の土木作業員に声をかけると、こんな話が聞けた。 「上半身裸の男が毎日自転車に乗ってる」 川沿いを1時間ほど行ったり来たりしていると、200メートルほど先に自転車で走り去るタンクトップ姿の男性が見えた。 さすがに自転車は速く、走っても追いつけない。地面にできた車輪の跡をたどり、草の中に乗り捨てられた自転車を見つけた。生い茂った背丈ほどの草を書き分けると、レジャーシートで屋根を作った掘っ立て小屋が目に入った。