大阪・植物栽培の達人 上杉元重さん「栽培係は担任教師」
大阪・植物栽培の達人 上杉元重さん「栽培係は担任教師」 THE PAGE大阪
原生種と園芸種を合わせて6000品種の植物を栽培展示する大規模温室植物園「咲くやこの花館」(大阪市鶴見区)。10数名の専門スタッフを束ねて植物の生育に取り組むのが、植物栽培チーフの上杉元重さん(46)だ。華やかな植物展示の舞台裏で、どんな作業が行われているのか。栽培スタッフの思いと仕事ぶりに迫る。
ハスの植え替えは「八重桜の咲くまでに」
咲くやこの花館では現在、「花蓮展」を開催している。貴重な古代種など、約200種類の花ハスを観賞できる。30代女性は「1カ所で多くの種類の花ハスが見られるのは珍しい」と、写真撮影に余念がない。 会場内を巡回しながら、ハスの状態に気を配る上杉さん。十分な日光が必要な花ハスに、しっかり日が当たっているか、鉢の展示位置にも気を配る。来館者に大輪の花を楽しんでもらう。一年越しの苦労が報われる瞬間だ。 鉢で栽培する花ハスは、一年で地下茎が鉢一杯に伸びてしまう。翌年も見事な花を咲かせるためには、十分な栄養が行きわたるよう、新芽が芽吹く地下茎部分だけを残して植え替えをしなければいけない。上杉さんによると、「植え替えは八重桜が咲くまでに」との言い伝えが、先人たちから受け継がれているという。 「植え替えのタイミングは気温の推移などによって、毎年微妙に異なります。植物のことは植物に聞く。寒さが和らいでくると、咲くやこの花館の近くにある八重桜の様子を観察しながら、植え替え準備を進めます」(上杉さん) 植え替え作業時、水が冷たくともゴム手袋を使わない。花ハスの地下茎はデリケートで、小さな傷口から腐りやすい。傷つけないよう、素手でやさしく扱う。田んぼの土を利用しているが、地下茎を傷つけやすい小石のたぐいはすべて取り除くほど徹底している。 植え替えが終わってからも、気を抜かない。鉢の水のわずかな変化に目を凝らす。「植え替え後、地下茎が定着すると、水が澄んできます。半面、水が濁ってくると、地下茎が腐っているかもしれないので、予備の地下茎に切り替える必要がある。植え替え前後のわずかな期間で、花の咲き具合が決まります」(上杉さん) 池で自生している花ハスは、遠くからながめるしかない。花を間近で観賞したいがために、人間が鉢植えの栽培法を考え付いた。上杉さんは「ハスには迷惑な話かもしれませんので、せめてしっかり手入れをするのが、我々の務めでしょう」と謙虚に語る。