立川と世界をつなぐ料理体験 イギリスで“カイセキキング“と呼ばれた料理人が率いる「ときと」の挑戦
フレンチやイタリアンから派生したイノベーティブな料理はありますが、日本料理から派生したものはまだ少ないですし、私たちのスタイルこそがイノベーティブだという矜持も持っています。懐石料理の限界も経験しているため、日本料理を後世に残すために変化は必要なんです。
――まさにチームで作り上げる料理ですね。
石井:私は自分の表現したいスタイルだけで料理を構成しません。トップダウンは1つの形式ですが、私は単純にそういったことができないんです。ロンドンの「UMU」では総料理長でしたから自分のスタイルを突き通すこともできましたが、個性の強いフランス人やイタリア人をまとめる大変さも感じていました。彼らの主張を押さえつけるよりも、調和しながらチームを引き上げていく方がみんなのやる気を高めることができます。私は守るべきルールと少しのアドバイスをするだけ。副料理長たちが発案したアイデアが磨き上げられ、メニューに加えていました。いわば、プロデュースをずっと続けてきたんですよね。
――世界的な美食ブームについて、どのように考えていますか?
石井:プラス面は食の可能性が広がっていることです。例えばデンマークの「ノーマ」のように、ファインダイニングの食文化がなかったところに独創的な料理と技術でまったく新しい食の多様性を形成したという意味で、すばらしい変革ですよね。レネ・レゼピの思想や専門家の活動などが重なってプロジェクトができ上がり、それに影響されたレストランは欧米を中心に広がっています。
マイナス面は料理以外にもいえることですが、メディアや情報の受け手が保守的な考え方を持つことによって、世界中であらゆるものの均一化が進んでいることです。変化や新しいアイデアに対しての抵抗が強まりますし、創造性や多様性が損なわれて似たようなスタイルが主流になってしまう可能性があります。 日本では伝統的な懐石料理を突き詰めたり、江戸前の流儀を貫く寿司職人など、先人から学んだことを受け継いだり、ほんの少し変化させて未来に残す料理人がたくさんいます。
ただ、海外から伝わった天ぷらや麺などを日本の技術として昇華させたように、ダイナミックな変化も日本料理の発展には必要。伝統と革新の両方があって、日本食は独自性を保ち続けられるのではないでしょうか。