日本人が望んだ長寿社会―人口減少時代に幸せな人生送る社会を確立できるか
この世代の人口がこれから先、どのように減少していくのかを示したのが図4です。国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計を使い、世代別人口の1年毎の減少数を計算しています。ほぼ死亡数と考えてよいでしょう。5年毎の世代で分類していますが、2026年から2036年までは100万人以上の減少となっており、人口減少のピークは2030年代前半に来ることが見通されています。 1930・40年代生まれの世代が死亡することによって、その持ち家が初めて空き家になります。しかしその子どもは、これらの持ち家を引き継がないでしょう。寿命が伸びたことで親が死亡する頃には、子どもは既に住宅取得を済ませているからです。 それから地理的な問題もあります。地方圏から大都市圏へ流出した子どもは多いですから、地方の親の家を引き継ぐ子どもが近くにいないというケースは多くなっています。大都市圏郊外住宅地出身者も都心居住する者が多く見られますから、やはり親の住んでいた家を引き継ぐ子どもが近くには住んでいないケースは多くなっています。こうしたことを踏まえると、この世代が居住している持ち家が2030年前後に大量に空き家となり、その多くが中古住宅市場に出回ることになると考えられます。 特定の場所に多くの空き家が生じれば、住宅価格・地価は恐らく下がります。その下がり方によっては購入する人もいて、地域が新しい住民で充足されるということもありうるでしょう。しかし、価格が下がる分、以前よりも所得階層の低い人々が居住できるようになることにより、地域社会は変容するはずです。 1930・40年代生まれの世代が形成した小規模核家族世帯とは親2人・子ども2人のいわゆる標準世帯であり、その多くがサラリーマンの夫と専業主婦の妻によって構成されていました。その中でも、とりわけ専業主婦のシャドーワークによって地域社会は成立していたといってよいと思います。これから先、新しい住民となるのは、家族形成前の若年層や生活が不安定な非正規労働者などかもしれません。ですから専業主婦がいることによって成立していたような地域社会とは異なるものを想定し、作り上げていかなくてはならないでしょう。 また、結果的に住宅が売れず、空き家ばかりの地域になってしまえば治安の悪化が問題になるでしょうし、その中で高齢単身者の孤独死もより顕在化してくることになるでしょう。いずれにせよ1930・40年代生まれの世代の死亡により、この世代が多く居住していたような地域は大きく変容していくことになるはずです。 行政的な視点から考えると、地域ごとのある種の特徴は居住者が入れ替わることによって変わっていくということを念頭に置き、さらにその変化が2030年頃に大きくなるだろうという予想のもと、必要な施策を展開することが求められます。