東京バレエ団『くるみ割り人形』主演の生方隆之介インタビュー 「ブラッシュアップした王子を」と意欲
もうすぐクリスマス、『くるみ割り人形』の季節がやってくる! 東京バレエ団が毎年上演しているのは、2019年に斎藤友佳理芸術監督(現団長)の陣頭指揮で新制作した『くるみ割り人形』。チャイコフスキーのお馴染みのメロディによる古典バレエを、生き生きと、色彩豊かに蘇らせて人気を得ている作品だ。実力派ダンサーたちが日替わりで登場し、それぞれに個性あふれる舞台をつくりあげるのも、団員の層の厚さを誇る東京バレエ団ならでは。そんな舞台の魅力を、くるみ割り王子役ダンサーのひとり、同団ファーストソリストの生方隆之介に聞いた。 【全ての写真】『くるみ割り人形』メインビジュアルほか
マーシャを夢の世界へとエスコートしてゆく、ガイドのような存在
多くのバレエダンサーにとって『くるみ割り人形』は、プロになる前から携わる機会の多い作品のひとつ。生方も、地元群馬のバレエ教室の公演に出演した思い出があるという。 「被り物をしてねずみを演じました。こうした舞台では王子役をゲストの先生が踊られることが多いのですが、僕はよくゲストの先生方と戦っていました(笑)。サンクトペテルブルクのワガノワ・バレエ・アカデミーに留学していたときは『くるみ割り人形』公演で人形役を経験、その後2年間留学したハンガリーのバレエ学校でも、12月はやはり『くるみ』。1年目、2年目とも王子役を踊らせてもらいました。その時期、街にはクリスマスマーケットが出てとても華やかになります。出店でくるみ割り人形を売っていたりもして、一緒に組んで踊る子にプレゼントしました(笑)」 ハンガリー留学を終えて帰国後、東京バレエ団に入団したのが2019年9月。バレエ団が現在上演している『くるみ割り人形』は、この年の12月に新制作で上演された作品だ。 「衣裳から何からゼロから作っている様子を見ていたので、新制作って大変なんだな、と実感しました。リハーサルで “音出し”の係をしながら、振付が作られていく場に直に立ち会ったり、突然王子役に駆り出されたりすることも。たまたま王子役のダンサーが不在だったんですね。自分が王子役なんてやるわけないのに(笑)──と思っていたのに、去年、実際に王子役を踊ることになって……。全幕作品の主役は初めてでしたから、最初はとても不安でした」 さまざまな課題に真摯に向き合い、見事に初めての王子役をつとめあげた昨年の『くるみ割り人形』。今年4月には『白鳥の湖』のジークフリート王子にも初挑戦、王子役として全幕での経験を重ね、多くのことを吸収した。 「『白鳥の湖』では、全体を通して作品の中で“生きられた”と感じられて、舞台上で感動した場面もありました。周りの皆さんもすごく応援してくださって、それには少し、応えることができたかな、と思っています。王子役といってもそれぞれ、ですよね。『白鳥の湖』のジークフリートはいろいろと思い悩む人間らしい王子で、『眠れる森の美女』のデジレ王子はひたすらカッコいい。それに対して『くるみ』の王子は、主人公のマーシャを夢の世界へとエスコートしてゆく、ガイドのような存在だと捉えています」 幕開けは、シュタールバウム家のクリスマスパーティー。華やかな宴ののち、皆が寝静まった夜中の広間で繰り広げられるのは、ねずみの王さまとの兵隊たちの戦いだ。マーシャに助けられたくるみ割り人形は、王子となって彼女を夢の世界へといざなう。 「友佳理さんは第1幕の、くるみ割り人形が王子となってマーシャの前に現れる“目覚め”のシーンを、とても大事にされていると感じます。疎かにすることなく、厚みを失わないように演じられたら」