東京バレエ団『くるみ割り人形』主演の生方隆之介インタビュー 「ブラッシュアップした王子を」と意欲
世界観を壊さないよう、意識し続けて踊ることが大事
東京バレエ団の『くるみ割り人形』は、マーシャと王子がクリスマスツリーの中を旅していくという演出が独特。第2幕でマーシャと王子を歓迎するスペイン、アラビア、中国などの各国の踊りも大きな見どころに。 「クリスマスツリーのずっと上のほうにいるダンサーたちが、一組ずつ降りてきて歓迎の踊りを見せる。東京バレエ団の『くるみ』ならではのトリッキーな演出です。僕はこれまでにアラビアとスペインを経験していますが、アラビアはグリーンの衣裳がカッコよくて好きだし、スペインは伝統的なロシアの振付をアップデートした、見応えある踊り。その間、王子はずっとマーシャと一緒に彼らの歓迎の踊りを見ているのですが、そのあと主役ふたりの大きな見せ場であるグラン・パ・ド・ドゥがあるから、気が抜けないんです(笑)」 マーシャ役は、ソリストの涌田美紀。子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』では恋人同士、昨年の『くるみ』でも共に主役カップルを演じた。 「美紀さんにできるだけ気持ちよく踊ってもらえるよう、サポートし続けることが大事だと思っています。持ち上げた女性を片手で支える“出前”と呼ばれているリフトや、女性を頭上で支える“飛行機”とか、跳んできた女性を肩に乗せるリフトもあって、僕たちも前回とはまた違うリフトに取り組む予定です。このグラン・パ・ド・ドゥは体力的に本当にきつい踊り。女性がひとりで踊るヴァリエーションは、古典バレエの中でもかなりハードな部類のものだと思いますし、終盤のコーダは女性も男性もほぼ踊り続ける。そんな中で消耗してしまったら、きっとお客さまに伝わってしまう。その世界観を壊さないよう、意識し続けて踊ることが大事だなと思います」。 東京バレエ団ならではの美しいコール・ド・バレエ(群舞)も見逃せない。 「ダンサーたちにとってすごくハードな振付である分、見応えがあります。バレエをあまりご覧になったことのない方も親しみやすい物語ですし、舞台装置や衣裳も色彩豊か。踊り以外の部分も存分に楽しんでいただける舞台なので、ぜひ、多くの方に楽しんでいただきたいと思います」 東京バレエ団に入団して6年目。ますますの活躍が期待される中で、ダンサーとしての今後の展望についても、さまざまに考える。 「いまの時代、バレエはテクニックや容姿が大事と思われがちですし、ともすると自分もそちらのほうに走ってしまいそうになる。でも、全幕を通して人を惹きつけることのできるダンサーの魅力はテクニックだけではないはずですし、友佳理さんもよく『心があるダンサーが一番魅力的』と言われます。古典だけでなく、モーリス・ベジャールをはじめさまざまな作品に取り組んでいるからこそ、そう感じられるのかもしれませんが、見た目や形だけでない、伝えたい思いや気持ちを、もっと身体にのせて表現できるダンサーになっていきたい。それが目標ですね」 取材・文:加藤智子 <公演情報> 東京バレエ団 創立60周年記念シリーズ11 『くるみ割り人形』全2幕 音楽:ピョートル・チャイコフスキー 台本:マリウス・プティパ(E.T.A.ホフマンの童話に基づく) 改訂演出/振付:斎藤友佳理(レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネンに基づく) 舞台美術:アンドレイ・ボイテンコ 装置・衣裳コンセプト:ニコライ・フョードロフ 指揮:フィリップ・エリス 演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 児童合唱:NHK東京児童合唱団 【東京公演】 2024年12月12日(木)~12月15日(日) 会場:東京文化会館 ※大阪(堺)・兵庫(西宮)・京都公演あり