巨大IT規制 新たな法成立も…現場取材から分かった課題とは?【WBS】
巨大IT企業であるアップルやグーグル。12日、これらの世界的な企業を規制するための新たな法律が、国会で成立しました。企業間の競争を促すことで、新たなサービスの提供や価格を引き下げることなどが狙いですが、実現することはできるのでしょうか? 現場を取材すると、大きな課題を抱えている実態が分かりました。 【動画】アプリ市場での独占を規制 「スマホ競争促進法」が成立 12日、参議院本会議で可決・成立した「スマホ特定ソフトウエア競争促進法」。アメリカのアップルやグーグルなどを念頭に置いた、巨大IT企業による市場の独占を規制する法律です。 具体的には、スマホの「基本ソフト」、「アプリストア」、ウェブサイトを閲覧するための「ブラウザー」、「検索エンジン」の4つの分野で競合他社の参入を妨害することや検索結果で自社のサービスを優先的に表示することを禁止します。違反した場合は、関連する国内での売り上げに対して、20%の課徴金が科されます。政府は来年の末までに法律を施行する方針です。 アプリ開発を手がける事業者などの業界団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム」も、今回の法律に期待を寄せています。 「アプリ事業者は『デジタル小作人』と言われるぐらい非常に立場が弱い。法律があれば、これまで一方的だったものが対等とはいかなくても、いろいろな意見が言いやすくなるのではないか」(「モバイル・コンテンツ・フォーラム」の岸原孝昌・専務理事) 岸原さんは現在、事業者がアプリを配信する場合、アップルやグーグルなどと契約するしか選択肢がないと指摘。今回の法律によって新たな企業がアプリストアを展開することになれば、最大30%という手数料が下がると見ています。 「競争がないと消費者にとってはマイナス。価格が高止まりし、多様なサービスを受けられない。最終的な目的は消費者の利益のために今回の法律ができたのではないか」(岸原さん)
巨大IT企業の監視に課題
今回の法律を所管し、巨大IT企業を監視することになる「公正取引委員会」デジタル市場企画調査室の稲葉僚太室長に話を聞くと、「ここからがスタート。法律をつくって終わりではなく、法律を実効的に運用していくための体制を整備していく。いろいろな課題がまだまだ残っている」といいます。どういうことなのでしょうか。 アップルのアプリストアでアプリを提供する国内の事業者は実に50万以上。 公正取引委員会はアップルと50万以上の国内事業者の取引が適正かどうかを監視していくことになります。 しかし、稲葉室長によれば「我々のチームは現在14名の体制。体制強化が必要だと思っている」。巨大IT企業への規制で先行するEUでは、取引を監視する専門家はおよそ100人。また先月、日本と同様に巨大IT企業への規制を強化する新法を成立させたイギリスでは、現在60人いる専門スタッフを200人に増員していくと表明しています。海外に比べて日本の体制の脆弱さが際立っているのです。 「高度な専門人材の登用もこれからどんどん進めていく必要がある」(稲葉室長) 今回の法律の成立について、テレビ東京がグーグルに受け止めを聞いたところ、「今後も政府および業界関係者と建設的な議論を深めていく」と回答。 一方、アップルは、「この法律が与える影響について懸念を持ち続けながら、公正取引委員会と密に連携してまいります」と回答しました。 「アップルの『懸念を持っている』という声明を当局としてどう受け止めている?」 「セキュリティー上の『懸念』だと理解している」(稲葉室長) アップルやグーグルは政府との協議の中で、アプリの運営や決済システムを開放すれば、セキュリティーが危うくなるなどと懸念を示し、規制の緩和に慎重だといいます。 「既存の巨大IT企業がセキュリティーなどを確保し、新規参入を増やしていく。そういったことが今後この法律によって実現されていくといいのではないか」(稲葉室長)