伍代夏子さん、のどの病を乗り越え「気持ちを作り、表情を作り、声を作り」歌う 〈インタビュー前編〉 坂本真子の『音楽魂』
「原因がわからなくて……」
伍代さんは2021年、のどのジストニア(けいれん性発声障害)と診断されたことを公表しました。2年ほど前からのどに違和感があり、歌うときだけでなく、普段の会話も難しいときがあったそうです。体がしびれたり、マイクを持つ手が震えたりして極度の緊張状態に陥ることも。さまざまな検査や治療を経ての診断でしたが、「原因がわからなくて、諦めています」と伍代さんは話します。 「私に限って絶対にならないであろうと思っていたメンタル的なもので、脳の疾患という人もいますし、バグのようなものという人もいます。詰め込みすぎたストレスみたいなものを出して空っぽにすれば治る、という人もいます。でも、いろいろ聞いて『これで解決できる』と思っても、いざやってみると治らないんです」 ストレスが原因ではないか、と言われたことで、伍代さんはより一層思い悩みました。 「ストレスはなくせないじゃないですか。ほとんどが対人関係によるものだと思いますが、無人島に行くことはできないですし、今の仕事を辞めて田舎に行けば、という人がいますけど、歌の仕事をしているからこそ被災地の復興支援も動物の保護活動もできるんです。加齢に伴ってビタミンCが失われてストレス耐性がなくなったから、とも言われました。でも、否定する自分がどこかにいるんです。そんなはずないでしょ、私はこんなに強いのに、と思うから」 歌手としての道を自ら切りひらき、40年以上歩んできた伍代さん。カウンセリングなどを受ける中で、自分自身の性格を分析したことが、対処法を考えるきっかけになったそうです。 「たとえば、テレビ番組の地方ロケや歌の収録の際に、私はせっかちなので、あれをこうしておけば早く終わったのに、と思ってしまうタイプなんですね。でも、そうやってイラッときてしまうのがダメなんです。カウンセリングの先生には『世の中であなたの常識が全て正しいとは限らないし、いろいろな人がいるんだ、と飲み込むと治りますよ』と言われています」 ロケなどで待ち時間が長くなりそうなとき、最近は趣味のカメラを持参しています。 「『いくらでも待つよ』と言って、田んぼにバッタやカエルを探しに行ったりするんです。違うことに意識を向けるようにすると、気持ちが落ち着くので」 さらに、「『○○すべき』をやめた方がいい」というアドバイスも受けました。 「これはずっと心に留め置こうと思っています。この病気になる人は、さまざまなことに対して『これは常識でしょ』とか、『人としてこうあるべき』と考えがちだそうで、『それをまずなくしましょう』と。私も『○○すべき』と思うことがよくあります。でも、『それは誰が決めたことですか』と先生に聞かれると答えられなくて。『私が悪いんでしょうか』と聞き返したんですけど、先生は『誰も悪くない。いろいろな人がいると思えばいいだけ』と。理解できたようで、難しいところですね」 大人になってから、自身の価値観を変えることは簡単ではありません。 「自分の根底の部分だったりするので、ちょっと抵抗しているところはあります。もし本当にそれが原因なら、私自身が納得しないと変えられないじゃないですか。ただ、2年ほど前までは症状がひどい時期がありましたけど、こういうときはこれで気分転換してみる、といった対処の仕方がわかってきたので、今は、だましだまし、楽しくやれています」