伍代夏子さん、のどの病を乗り越え「気持ちを作り、表情を作り、声を作り」歌う 〈インタビュー前編〉 坂本真子の『音楽魂』
「25年かけてやっと歌えるように」
伍代さんは1982年に21歳で歌手デビュー。87年、「伍代夏子」としてのデビュー曲「戻り川」がヒットして注目され、90年に「忍ぶ雨」でNHK紅白歌合戦に初出場しました。「雪中花」「ひとり酒」「鳴門海峡」などのヒット曲を持ち、現在62歳。東日本大震災などの被災地支援や国際交流、動物保護活動にも力を入れています。 新曲「渋谷百年総踊り」のような明るく軽やかな歌から重厚な演歌まで幅広く歌いこなし、長く歌い続けてきた伍代さんが、歌うときに大事にしていることは何でしょうか。 「声の色ですね。顔の表情はとても大切で、笑えば明るくなり、泣けば悲しくなりますが、顔よりも声で、泣いたり笑ったりすることが必要です。気持ちを入れて歌えば悲しみが伝わるわけではなく、悲しみが伝わる声を出さないといけないんです」 伍代さん自身が納得して歌えるようになるまでは、長い年月と経験が必要だったそうです。 「42年歌っていて、伍代夏子になって37年として、25年ぐらいかけてやっとですね。調子が悪くても気分が乗らなくても、それなりに仕上げられるようになってきたかな、と思います。若い頃は、歌い出しの第一声が違ってしまうと、立て直せないときもありました。次の音からどうやって声と気持ちを整えていくのか。年齢を重ねるにつれて、途中からでも立て直せるようになりました」 「そのためにも、日頃のお稽古がとても大切です。曲の同じところで何度も失敗するようになって、何年か歌い続けて、やっとうまく歌えるようになるけれど、また何年かしたらスランプに陥って……というのを繰り返しながら、いろいろな作品を歌っていくんです。3日に一度コンサートが続いて、ガラッガラのヒリヒリでのどが痛くても、たくさん歌っているときの方が立て直せます。普段のお稽古でも、いかに本番のように集中して歌えるかが勝負だと思っています」 歌については妥協を許さず、心血を注いで取り組んできた、その気概が伝わってきます。 「歌の世界を伝えるのが私の役目なので、悲しみや喜びが伝わるように、気持ちを作り、表情を作り、気持ちと同じ声が出るように考えて声を作り、歌うんです。奥が深くてやめられないですね」