性行為強要訴訟 原告、解決金を減額して元職場に研修約束させ和解
佐賀県嬉野市の温泉旅館に勤務していた長崎県内の30代女性が料理長(当時)の50代男性から性行為を強要されて旅館側の対応も不適切だったとして、男性と旅館運営会社に計約1100万円の損害賠償を求めた訴訟が、長崎地裁(松永晋介裁判長)で和解した。女性は会社にハラスメントの再発防止を徹底させるため、自ら受け取る解決金を半額に減らしてでも、会社が外部講師を招いて社員教育に取り組む条件での和解にこだわった。【樋口岳大】 ◇原告「解決金減額に悔いなし」 和解は11月7日付。和解条項には、会社が女性の気持ちに配慮し、行き届いた対応ができなかったことに遺憾の意を表明し、今後同様の問題が発生しないよう外部講師を招いてハラスメント防止のための社員教育を講じ、職場内のハラスメント防止に関する規定を周知徹底させることなどが盛り込まれた。また、解決金として会社が50万円、男性が250万円を女性に支払う。 女性は既に退職しており、女性の代理人で日本労働弁護団常任幹事の中川拓弁護士は「ハラスメントの被害者側が、自らが受け取る解決金を減額してまで元の職場に再発防止策を徹底させる内容で和解したケースは聞いたことがない。会社は女性の思いを真摯(しんし)に受け止め、再発防止に取り組んでほしい」と話した。 女性は2018年9月~22年6月、旅館で勤務した。23年1月に起こした訴訟では、在職中の19~20年に男性から3回にわたって性行為を強要され、SNS(ネット交流サービス)での連絡を絶つと、職場に「死ね」「バカ」などと書かれた紙を複数回貼られたと主張。管理職に相談したが、男性とのことを職場で吹聴されたなどと訴えた。 女性側によると、24年3月に始まった和解協議で、女性は会社と和解する条件として、会社が外部講師によるハラスメント教育を実施することなどを提案。地裁が会社側の意見を聴いて同9月に示した和解案には、会社が解決金として100万円を支払い「今後同様の問題が発生しないよう従業員の(男女間)の私生活上の行動にも注意喚起を促すための社員教育を講じる」などの文言はあったが、外部講師を招くとの条項はなかった。 裁判官を通じて理由を尋ねると会社の金銭面の負担を示唆されたため、女性側は「再発防止の徹底には、社内での注意喚起では不十分。外部講師による社員教育を条件に入れるなら、解決金を半額にしてもいい」と提案。会社側も同意し、和解が成立した。 ◇苦しむ人後押し 女性が勤務した旅館には仲居などの女性従業員が多かった。女性は23年5月の第1回口頭弁論で「今後雇われるかもしれない人が同じような目に遭わないように、今どこかで同じように苦しんでいる人たちの後押しになれたらと思い、この場に立っている」と意見陳述した。 女性は不安障害と診断されて23年7月に労災認定を受け、今も通院を続ける。和解について「裁判を通して残せるものは何かを考えた。解決金の減額に後悔はない」と語った。 会社の代理人は取材に「原告のお気持ちに十分配慮したい」などと答え、男性の代理人は「和解により双方の合意によって解決できた」と述べた。