ヘビの肺を食べて殺す寄生虫「舌虫」が急拡大、米国フロリダ州、南東部全体に広がる恐れ
寄生虫にとっては理想の環境
ヘビの肺舌虫症は、ゴキブリが、すでにR. orientalisに感染したヘビの糞を食べることから始まる。R. orientalisの卵はゴキブリの体内で孵化し、幼生を宿したゴキブリは、中間宿主となるトカゲやカエル、小型の哺乳類など、さまざまな動物によって食べられる。 そしてこれらの中間宿主が、終宿主であるヘビに食べられると、幼生はヘビの肺を目指して一目散に進む。 ヘビの体内でおとなとなったR. orientalisは血液を吸い、最大で長さ10センチほどに成長し、肺病変や肺炎、敗血症などを引き起こす。寄生虫との闘いに膨大なエネルギーを費やしたヘビは、次第に食べる力を失い、餓死してしまうこともある。 さらに悪いことに、緑豊かな湿地帯が多いフロリダ州には、R. orientalisの移動を助ける中間宿主となる動物が多数生息している。またフロリダ州が、ペットとしての爬虫類や両生類の取引で世界の中心地になっていることも、寄生虫にとっては好都合だ。 感染の有無を調べる手段はなく、許可を受けて捕獲された野生のヘビであれば、問題なく売り買いされていく。テグー(主に中南米原産の大型トカゲ)やトッケイヤモリ(Gekko gecko)など、人気の高い爬虫類が宿主となっている場合もあるが、感染した時に健康にどのような影響があるのかについては、ほぼ分かっていない。 「恐ろしいことにR. orientalisはさまざまな動物を宿主にでき、ペットとして飼われている動物に感染が広がる可能性があります」と、パルミサーノ氏は言う。
耐性を示すヘビも
ヘビの寄生虫感染症の調査と抑制を難しくしている要素は他にもある。例えばファレル氏が言うように、ヘビは人目につかないため、この問題そのものが軽視されてしまうことだ。 米国のヘビはこの寄生虫に対して防御システムが備わっておらず、その点では、より脆弱だと言える。それに比べると、元々アジアに生息するビルマニシキヘビはR. orientalisとともに進化してきたため、感染しても容易に回復できる。 感染したヘビは、捕獲して専門家の治療が受けられれば助かる見込みはある。とはいえ、これは現実的な解決方法ではない。 「地域にいる野生のヘビをすべて捕まえて治療するには、すべてのカエル、トカゲ、ゴキブリも捕まえなければなりません。それは不可能です」とファレル氏は言う。 しかし、希望がないわけではない。ミラー氏の調査によると、いくつかの在来種が数を減らしている一方、フロリダヌママムシ(Agkistrodon conanti)は、感染が広がっているものの生息数は減っていない。 「まだ予備的な調査ではありますが、R. orientalisに対してより強い耐性を持つ在来種もいるようです」と、ミラー氏は話す。R. orientalisがフロリダヌママムシの免疫システムに及ぼす影響は、他のヘビに比べて小さい可能性がある。 「感染症からの影響をさほど受けない在来種もいる、という希望が生まれました」
文=Sruthi Gurudev/訳=三好由美子