「出世の街」のママ起業家たち ~ 停滞する地方都市の起爆剤になる?
店長の種吉奈月子さんによると、不定期で開いていたハンドメイド販売会が好評だったので、常設販売できる場所を探していたそうですが、「なかなか手の届く金額での貸店舗はありませんでした」。そんなとき、知人の紹介で一般住宅が借りられることになり、店舗用に改装したということです。 運営メンバーの多くは、子どもが同じ幼稚園に通っていたことで知り合った「ママ友」たち。「ミシンを使って作業もできる“ソーイングカフェ”のようなスペースを作りたかった。ワークショップなども積極的に開いて、子育てママがハンドメイドを楽しみながら集える場所にしていきたい」と抱負を語ります。 この「MAMEMAME-YA」は、種吉さんを始めとする運営メンバーの自宅から近い場所にあり、幼稚園や小学校、塾に通う子どもの送り迎えの合間に立ち寄ることができるのが特徴です。自分たちの子どもが過ごせる「個室」も設けられていて、子育てを大切にしていることが伝わってきます。 「ママ起業家」という言葉については、「そもそも起業したという感覚ではない」という種吉さん。「なんとか運営が成立するようやっていきたい」と謙虚な言葉を口にしていましたが、これもママ起業の一つの形ではないかと感じました。
「出世ママ」が生まれる条件とは?
取材してみて、女性の起業といっても、さまざまなタイプがあることがわかりました。では、「起業して終わり」とならないために、注意すべき点はあるのでしょうか。 「社会とつながる何かをしたい、と考えている母親は多い。その“何か”が起業という人も増えてきたが、自分の中でしっかりと固まっていないように感じる」。そう語るのは、NPO法人「はままつ子育てネットワークぴっぴ」の理事長として、母親の就労支援に関わってきた原田博子さんです。
「実務経験が重視されるなか、資格をとって起業しても、仕事として成り立つとは限らない。ブームや形から入る起業には賛成できないし、自分の中で強い動機付けがなければ継続しないだろうと感じる。仕事にするなら、どんなことがあってもやりぬく覚悟が必要」 原田さんが口にするように、ブームに流されてやみくもに起業しても、2、3年で行き詰ってしまうでしょう。その一方で、就労相談に訪れる女性は多く、働く意欲があるママが増えてきているのも事実です。彼女たちがもっとスキルアップできる機会が与えられれば、さらに一歩進んだ事業に取り組むママが出てくるのではないかと感じます。 さらに、柔軟な対応ができる保育施設や経営を学ぶための奨学金制度など、女性の環境に寄り添った支援があれば、大きく成長する人材が生み出される可能性もあるのではないでしょうか。それは、幼い子どもを抱えながら社会で働きたいと感じている母親の雇用拡大、ひいては、浜松発の新規事業の創出につながっていくかもしれません。 「ママ起業家」とカテゴリ分けして、安易にもてはやしたり批判したりすることは、本当の起業を目指している女性には意味のないことです。「出世の街」をうたう浜松の起業支援事業が形だけのものに終わらずに、本格的な事業ができる「出世ママ」の登場を後押しするようなものになっていくことを期待したいと思います。 (この記事はジャーナリストキャンプ2015浜松の作品です。執筆:森口真紀子、デスク:亀松太郎)