南米チリの砂漠に「ファッションの墓場」、世界中から捨てられた衣類が行き着く先
衣料廃棄物の量は、国連が「環境と社会の緊急事態」と呼ぶレベル
アンデス山脈と太平洋に挟まれたチリ北部のアタカマ砂漠は、天文ファンが一度は訪れたいと憧れる、美しくさえわたった星空が見られる場所だ。 ギャラリー:アタカマ砂漠にできたファッションの墓場 だがアタカマ砂漠には、とても美しいとはいえない一面もある。ここは世界中から捨てられた衣類が集まる“ごみ捨て場”なのだ。衣料廃棄物が急増したのは、「ファスト・ファッション」として知られる安価な衣料品の大量生産が急速に進んだことが背景にある。衣料廃棄物の量は、国連が「環境と社会の緊急事態」と呼ぶレベルに達している。 2000~14年の間に、衣料品の生産量は2倍に、消費者の購入量は6割増えたが、着用期間は半分に減った。製造から1年以内に処分場や焼却炉に行き着く衣類は、全体の5分の3と推定される。毎秒、トラック1台分の古着が、廃棄または焼却されていることになる。 チリ北部の光景は、あるオンライン動画で「ファッションごみベルト」と呼ばれている。海の漂流ごみが集中する「太平洋ごみベルト」の陸上版という意味だ。アルト・ホスピシオという人口12万人の貧しい都市の郊外には、さまざまなブランドのラベルが付いた衣料廃棄物の巨大な山が、見渡す限り広がっている。 しかし、チリの人口集中地区から1600キロ近くも離れた砂漠地帯に、どうやってファスト・ファッションのごみがたどり着くのだろう。一見、不思議だが、実はアタカマ砂漠の西端にあるイキケという沿岸都市には、南米最大級の自由貿易港があり、そこにヨーロッパやアジア、南北米大陸から、毎年、数百万トン単位の衣類が送られてくるのだ。チリの通関統計によると、2023年の合計は4600万トンだった。 自由貿易港では、輸入品に関税や手数料がかからない。再輸出品にも同様の措置がとられることが多く、経済活動を促す一助となる。イキケの自由貿易港は、雇用の創出と低迷する地元経済の活性化を図るため、1975年に開設された。チリは世界最大級の古着輸入国となり、イキケを一変させ、ファスト・ファッションの爆発的拡大に伴って、輸入量も激増した。 イキケ市民にとって、「自由貿易地域に指定されたのは、まさに革命的な出来事でした」と話すのは、同市の歴史と文化を研究する財団の社会学者であるベルナルド・ゲレロだ。「誰もが急に、これまで夢にも思わなかったようなもの、たとえば自家用車などを買えるようになったのです」 ゲレロは、1990年代のあるとき、大量のダウンジャケットの積み荷が港に届いた後、市民が皆、同じようなダウンジャケットを着ていた光景を覚えている。それは、その後に起きることの前ぶれだった。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版4月号特集「砂漠にできたファッションの墓場」より抜粋。
文゠ジョン・バートレット(ライター)