老舗ブランド経営~日本の持続可能性に向けて
首藤 明敏(明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授) 日本には、創業100年や200年を超える老舗企業が数多く存在します。国際競争の文脈でみても、老舗の伝統や信用に裏打ちされた付加価値・ブランド力には大きな可能性があります。一方で、老舗企業は、その経営の持続可能性について、様々な課題に直面しています。 ◇「老舗大国」日本の老舗企業が持つ強みとは? 「老舗」というと、何代にも渡り引き継がれた長寿企業のイメージが強いと思います。しかし長く存続するということよりも重要なのは、そこから生まれる顧客からの信用や、地域における高い評価です。 日本は世界に冠たる「老舗大国」と言われます。2019年の帝国データバンクの調査によると、創業100年を超える企業は日本に約3万3000社存在し、そのうち創業200年を超える会社は約4000社程度あります。会社数では日本がおよそ世界の40%を占めています。 長い歴史の中で、老舗は様々な困難に直面してきました。直近100年をとってみても、戦争(第二次世界大戦)、金融・経済危機(バブル崩壊やリーマン・ショック)、自然災害(阪神淡路大震災・東日本大震災)、世界的疫病(新型コロナ禍)等を、その都度、乗り越えてきました。つまり、老舗には時代と環境の変化の中で破綻を逃れ、長年生き抜く組織としての学ぶべき特徴が多々あるのです。 また、営利企業でありながら、短期的利益よりも長期的生存と永続性を重視し、地域社会との調和と共存、社会価値を重視する姿勢が強いという特徴も見逃せません。 近年では、社会や経済のサスティナビリティ、SDGsへの対応、CSVやESG等が、企業経営において考慮しなければならない要素として注目されていますが、日本には近江商人の商売の極意である「三方良し」を始め、かねてから、こうした思想や文化があります。企業価値だけでなく、社会的価値も併せて重視するという老舗企業が大切にしてきた思想は、日本文化のなかに深く根ざしてきたものであると言えるでしょう。 一方で、老舗企業は、その多くが家業=ファミリービジネスです。それは身の丈の投資と長期的な存続の重視という経営姿勢にもつながっています。しかしながら、日本社会の人口動態はファミリービジネスの存続に大きな影を落としています。 その最たるが、少子高齢化による後継者の不在です。多くの老舗企業経営者が高齢化しており、後継者が見つからないため、廃業に追い込まれるケースが見られます。また、新興企業による買収の結果、老舗としての良さが失われる場合もあります。こうした状況は、日本の老舗企業が現在抱える最大の困難と言ってもいいでしょう。 人口減少下において、いかにして老舗企業を持続させていくか。あるいは、仮に老舗が家業として存続しなかったとしても、その社会文化的・経済的価値を日本社会として継承していくことはできないか。 私はそうした観点から、欧米型のブランド論と、日本の「暖簾」や老舗経営論との統合を図ることで、老舗ブランドの持続可能性に資する新たな発見を見出したいと考えています。