「藤井聡太15歳の歴史的対局、記録係は伊藤匠だった」「順位戦終局が23時以降だと…」“記録係不足問題”の将棋界、リアルな日当・仕事量
藤井聡太15歳の朝日杯、記録係が伊藤匠で…
2018年2月に都内ホールで行われた朝日杯将棋オープン戦の準決勝・決勝(広瀬章人八段-藤井聡太五段)の対局では“ある問題”が起こった。 藤井と同学年で15歳の伊藤匠三段が記録係を務めたのだ。当日は土曜日で中学校は休みで、夕方までに終局する。問題はないと思われたが、義務教育中の記録係は疑問だという声が後日にあった。 奨励会員の義務のひとつが公式戦の記録係を務めることで、対局者と一緒に読んだり感想戦を見るのは貴重な勉強になるといわれてきた。しかし近年は、奨励会員も棋士と同じように研究会で指したり、AI(人工知能)を利用する勉強法が主流である。一日がかりの記録係は、効率的ではないと思われている。
順位戦の終局は23時以降になる場合もある
中でも記録係の人員確保が難しいのは、持ち時間が各6時間とタイトル戦を除いて最も長い順位戦だ。 両対局者が持ち時間をフルに使うと、終局は深夜の23時以降に及ぶ。 A級以外のクラスは同日対局(人数が多いC級2組は2回に分けて行う)なので局数も多い。そこで将棋連盟は苦肉の策を立てた。 1人の記録係が対局開始の10時から2局分を務め、夕食休憩が終わる18時40分からもう1人の記録係が加わる。時間を分けることで、後者の記録係は昼間の研究会に出られる。棋譜と時間を自動的に記録するタブレットの機器を使えば、1人で2局分の記録係を担当することはそれほど難しくない。 将棋連盟とある精密機器メーカーは、「自動記録システム」を数年前に共同開発した。対局室の天井にカメラを設置して盤上の指し手を撮影し、AIがその映像を基に自動で棋譜を作成するものだ。将来の無人化を視野に、対象の対局を少しずつ増やしている。ある女流棋戦の対局では、対局開始や休憩時間、残り時間などを自動音声で伝える機器が設けられ、なかなかの優れ物だった。 囲碁の公式戦で年間の総対局数は4000局以上。以前はそのうち6割しか碁譜を残せなかったが、囲碁団体の日本棋院の場合、「囲碁将棋チャンネル」が将棋連盟と同じシステムを開発して、全局のデータベース化を目指すという。日本は中国や韓国の囲碁界に実力的に後れをとっている。記録係の負担をなくして実力を養成することで、巻き返しを図る意図もあるようだ。 たかが記録係、されど記録係。記録係に関する諸問題はなかなか難しいものがある。 そんな記録係を経験してきた大棋士も多く、それぞれの個性にあふれたエピソードがある。 <つづく>
(「将棋PRESS」田丸昇 = 文)
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