投資で一喜一憂しないための「暴落」の考え方。コロナ禍の暴落で大損した金融ジャーナリストが平静でいられた理由は…
◆市場に参加する「入場料」 市場の調整がこれほどつらいのは、それが罰のように感じられるからだ。何か悪いことをして、厳格な先生にお仕置きされるような気持ちになる。 だが市場の調整は罰ではない。市場に参加するための入場料のようなものだ。 「タダで市場リターンを得られたためしはないし、今後もないだろう」。金融ジャーナリストで投資家のモーガン・ハウセルの言葉だ。 ハウセルは著書『サイコロジー・オブ・マネー──一生お金に困らない「富」のマインドセット』で、市場の調整はシステムのバグではない、と書いている。 投資資産の価値が下落する可能性を受け入れることは、長期的に資産を増やすのに必要な対価だ。調整なくしてリスクなし。リスクのないところにリターンもない。 だが労せずに報酬だけを得ようとするのが人間の本能だ。 その結果、投資家は「対価を払わずにリターンだけを得ようと小細工を弄し作戦を練る。要するに、株を売買するのだ。次の不況が始まる前に売り抜け、次の上昇相場が来る前に買おうとする。(一見すると)論理的な行動だ。だがお金の神様は対価を払わずに報酬だけを得ようとする者をよく思わない」(4)
◆成功している投資家の共通点 ポートフォリオ(資産の構成)・マネージャーのマーク=アンドレ・タルコットは、成功している投資家には共通点があることに気づいた。周囲がみなパニックになっていても、迷わず運用を続けていることだ。 タルコットは経済的成功者の例として、起業家や不動産オーナーを引き合いに出す。 「起業家は毎朝目覚めた途端に会社の時価総額を計算したり、保有する不動産の価値を調べたりはしない。事業の利益や売上状況を見る。結局のところ、それが事業の価値につながっていくからだ。彼らは長期的にモノを考える。会社が株式市場に上場したからといって、そうした姿勢を変える必要があるだろうか。株式市場に投資する人々の問題は、資産価値の変化が毎分、毎秒見えてしまうことだ。スタートアップ企業や不動産の価値は毎日算出されるわけではないので感情に影響を与えない」 重要なのは経験だ。株式市場の変動に最も弱いのは、比較的年を取ってから投資を始めた人、それも遺産相続や事業売却などでまとまった金額を投資しはじめた人だ、とタルコットは指摘する。 「こうした人たちは相当な金額を手にして、それをいっぺんに投資する。しかし市場が上がったり下がったりすることに免疫がない。急な変化が起きるたびにパニックになる。だから私の仕事の8割は、彼らのメンタルを管理することだと思っている。残りの2割がパフォーマンスの管理だ」 結論を言うと、成功の対価を払おう。ポートフォリオに余計な手出しをするのはやめよう。運用資産の価値は増えることもあれば減ることもある。一喜一憂しても意味がない。 言うまでもなく、このアドバイスが有効なのは市場を幅広くカバーする、手数料の低いインデックスファンドかETFを保有している投資家だけだ。 こうしたファンドには数百、数千社の株式が含まれている。歴史を振り返れば、株式市場は常に上昇する道を見いだしてきた。 一方、個別企業のなかには結局復活せず、最終的に株式の価値がゼロになったところも多い。個別株への投資が市場全体への投資よりリスクが高い理由の一つはここにある。 ・参考文献 (1)Dana Anspach, “How to Handle Stock Market Corrections,” The Balance, December 1, 2020. (2)Thomas Franck, “Here’s how long stock market corrections last and how bad they can get,”CNBC, February 27, 2020. (3)David Koenig, “Market Corrections Are More Common Than You Might Think,” Charles Schwab Intelligent Portfolios, February 25, 2022. (4)Morgan Housel, The Psychology of Money, Harriman House, 2020, p. 160.(『サイコロジー・オブ・マネー──一生お金に困らない「富」のマインドセット』モーガン・ハウセル著、児島修訳、ダイヤモンド社、2021年) ※本稿は、『年1時間で億になる投資の正解』(新潮社)の一部を再編集したものです。
ニコラ・ベルベ,土方奈美