ついに失われた「40年」へ突入するのか…「トランプ再選」で日本のお家芸・自動車産業が大ピンチを迎える理由
■“自国第一主義”の行き着く先は 一方、米国では、IT先端分野のAIなどソフトウェア開発に取り組む企業が増えた。国際分業体制を整備することで、経済運営の効率性は高まった。米国で鉄鋼など在来分野の雇用は減少したが、飲食、宿泊、交通、物流などのサービス業が成長した。米国は経済、政治、安全保障の中心国家としての地位を活用し、グローバル化のベネフィットを享受したといえる。 トランプ氏はグローバル化で経済の効率性を高めるより、関税などを使って海外企業に米国での生産を増やすよう求める可能性が高い。同盟国の企業による対中投資に規制や制裁を発動する恐れもある。 そうした政策は、米国をはじめ世界経済の拡大均衡を阻害することも考えられる。グローバル化が支えた企業のコスト逓減、直接投資の増加による新興国経済の工業化の加速、比較優位性による自由貿易の推進などの停滞懸念は高まるだろう。 ■自動車をめぐり日本との通商摩擦も 関税の引き上げによって、半導体や自動車などの分野で米国と中国、欧州諸国、わが国などの通商摩擦が拡大することも懸念される。状況によっては、米中で双方の企業の製品に対する不買運動が激化し、貿易戦争が勃発する恐れもある。 今後、わが国の経済運営の難しさは増す可能性がある。短期的には、わが国の個人消費に下押し圧力がかかりやすくなりそうだ。 トランプ政権が重視する関税引き上げは、米国の物価押し上げ要因になりうる。他方、減税の恒久化や規制緩和の期待から、一時的に米国の個人消費、設備投資は増え、政権交代後しばらくは米国経済が堅調な展開が続くだろう。その一方、景気の過熱とインフレ上昇の抑制に、連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和方針を微調整するとの観測も増えるだろう。それにより、米金利に上昇圧力がかかると予想される。
■自動車輸出、インバウンド需要が減少する恐れ 一方、わが国では実質賃金がマイナスの環境下、日銀は個人消費などに配慮して利下げを慎重に進めることになるだろう。その結果、日米の金利差は拡大し、円の下落圧力が高まることも考えられる。トランプ政権がイスラエルを重視し中東情勢が混迷すると、供給不安から原油価格が上昇するかもしれない。円安とエネルギー資源などの価格上昇でわが国の輸入物価は上昇し、個人消費は下押しされることも懸念される。 少し長い目で見ると、物価上昇、財政悪化などで米国の景気は減速し、わが国の自動車輸出、インバウンド需要が減少する展開も予想される。自動車生産の減少は、わが国の設備投資減少要因にもなる。 中長期的に、わが国の企業は米国の関税を回避するため、地産地消の体制を整備することになりそうだ。業績拡大を目指し、米国など成長期待の高い市場で得た収益を再投資する必要性も高まる。人口減少で縮小均衡が加速するわが国では、設備投資や研究開発は伸び悩むだろう。 ■ついに“失われた40年”へ突入するのか 1990年代以降、バブル崩壊などによりわが国の経済は“失われた30年”と呼ばれる停滞に陥った。それでも、わが国がそれなりの経済規模を維持したのは、1997年のハイブリッド自動車が世界的にヒットしたことがある。 今後、企業が国内で設備投資を積み増しづらくなると、わが国の企業が、世界の消費者が欲しいと思う高付加価値の新商品を創出するのは難しくなることが懸念される。それが現実味を帯びると、わが国の経済が“失われた40年”に向かう恐れは上昇する。米大統領選直後、国内の株価は円安観測などを材料に上昇したが、日本経済の先行きは慎重に考えたほうがよいかもしれない。 ---------- 真壁 昭夫(まかべ・あきお) 多摩大学特別招聘教授 1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。 ----------
多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫