生成AIの効果的な活用には「スキルとリテラシーを学習し続けている人材」の育成がカギに
本誌主催のイベント「クラウドWatch Day 生成AIのビジネス導入・活用支援企画 ~生成 AI が支える!これからのビジネス価値創造を 活用事例から探る~」が9月27日に都内で開催された。 【画像】内閣府「AI戦略会議」 クロージング基調講演「生成AI導入推進の鍵。いま企業に求められる『生成AI人材』の育成」では、生成AI活用普及協会(GUGA) 事務局次長の小村亮氏が登壇。生成AIを使う側の視点から、国や企業の動向と、企業で生成AIを活用するための人材育成、そしてAIリテラシーに関するGUGAの資格試験「生成AIパスポート」について語った。 GUGAは2023年5月に設立された団体だ。「テクノロジーの進化が速く、常に事例が少ない中で、現時点での最適解を見いだしていく必要があるという考えのもと、さまざまな知識や経験を集約して活動している」と小村氏は説明する。 具体的な活動としては、個人の人材育成、組織育成、AIツールの導入支援、企業への伴走支援、産学官連携、情報発信などがある。その中でも力を入れていることが人材育成だとして、資格試験「生成AIパスポート」を中心に小村氏は語った。 ■ 日本は国として生成AI活用を推進している まずは、生成AIに関する国の動向について。分岐点となったできごととして、2023年5月に第1回が開催された、内閣府の「AI戦略会議」を小村氏は挙げた。第2回はその2週間後に開催され、その間に「AIに関する暫定的な論点整理」が発表されるというスピード感だった。 また、「グローバルでも日本がリードしている面がある」として、2023年5月のG7広島サミットを受けて「広島AIプロセス」が立ち上げられ、日本が議長国として、生成AIに関する国際的なルールの策定をリードしていることを小村氏は取り上げた。 内閣府では、令和6年度概算要求におけるAI関連予算が、それまでの年から“頭ひとつぬけた”予算額になった。首相官邸でも、2023年10月を第1回として「AI時代の知的財産権検討会」を開催しているという。 こうした中で、小村氏がいま注目しているものとして語るのが、2024年4月に総務省と経産省が共同で発表した「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」だ。特にAIについて、従来はAI開発者の視点から語られることが多かったのに対し、AI開発者、AI提供者、AI利用者の3つの視点からまとめられていることが特徴だと氏は述べた。 これらの国の動きをまとめ、小村氏は「日本は国として本気で生成AI活用を推進している」と語った。 ■ 企業の生成AI活用が増加、学生も習得意欲 次に取り上げたのは、生成AIに関する企業の動向だ。 小村氏はまず、PwCコンサルティング合同会社が生成AIについて定期的に発表している調査結果を紹介した。自社の活用について、「活用中」は2023年秋から2024年春にかけて9ポイントアップ、他社事例についても「とても関心ある」が4ポイントアップしている。 一方で、同調査結果によると、課題も顕在化してきたという。その上位2つは「必要なスキルのある人材がいない」「ノウハウがなく、どのように進めればいいか、進め方がわからない」というもので、人材が課題となっていると小村氏は強調した。 小村氏はまた、学生側の意識についても、株式会社学情のアンケート結果を紹介したが、約80%が「AI活用・DX推進に関連するスキルを習得したい」と回答したという。 また、GUGAが主催した、生成AI人材を採用する意思を企業が表明するプロジェクト「生成AI人材採用宣言プロジェクト2024」にも言及。現在、92の企業・団体が賛同していると小村氏は紹介した。 これらの企業の動きをまとめ、「企業は、生成AIを導入するかしないかではなく、導入することを前提に考えるフェーズにある」と述べた。 ■ 生成AIレベルの証明が必要に 続いて小村氏は、これからの変化と、必要になってくることについて論じた。 まずは、AIの民主化だ。これまでのAIは、プロジェクトや個社ごとに作るもので、扱うのは技術職が中心だった。それが生成AIによって変化し、主な関わり方は「使う」ことへ、扱うのは「すべての人」へと変化。「いかに付加価値を高めるために使うか」が重要なことだと小村氏は語った。 次に取り上げたのは、これからは生成AIネイティブ世代が台頭してくるのではないか、ということ。それに伴い、生成AIのとらえ方も変化してほしいと小村氏は言い、「“生成AIが仕事を奪う”ではなく、“生成AI人材が仕事を奪う”と考えるのが健全ではないか」と述べた。 そして、このような時代に必要になってくることとして小村氏が挙げるのは、「生成AIレベルの証明」だ。「生成AIを前提とした業務オペレーションが構築されているため、採用においては生成AIレベルの証明が重要になる」「取引においても、納品物に生成AIが活用されていた場合、権利侵害などを考慮する必要があるため、生成AIへの理解が一定レベルを超えていないと発注できないようになる」、といった将来像を氏は語る。 このように、生成AIを安全に活用できるスキルの証明が必要になるだろう、と小村氏は述べた。 ■ AIリテラシーを高め生成AIリスクを予防する「生成AIパスポート」 そしてここまでの話を受けて、生成AI人材の育成に関して小村氏は言及した。 前提として小村氏は、生成AI人材の決まった定義がないことに触れ、GUGAによる暫定的な定義として「生成AIを学び続けている人材」と説明。「テクノロジーが進化し、社会が変化するので、学び続けることが重要」と、その理由を述べた。 また生成AIのリスキリングのアプローチについては、ハウツーや応用力の「スキル」と、安全に活用するために必要な知識・心構えである「AIリテラシー」の2つに分けて考える必要があるとする。氏は「スキルは効果が見えやすいので注目されがちだが、どちらも必要」として、AIリテラシーの重要性を強調した。 AIリテラシーで問題となる主なリスクとしては、「誤情報、偏った情報、悪用された情報との接触」「個人情報・秘密情報の漏洩」「知的財産権、パブリシティ権、肖像権などの権利侵害」「不正競争防止法への抵触」を小村氏は挙げる。 これらについて氏は、「必要以上に恐れる必要はないが、知っておく必要がある。組織の中で1人がリスクを冒してしまうと、組織の責任となる可能性がある」と語った。また、AIリテラシーとAIスキルの「高い」「低い」を組み合わせた4象限を取り上げ、「まずはスキルが高くAIリテラシーが低い、“リスクが最も高い人材”を防ぐのが大事」だと述べた。 このようにAIリテラシーを高め、生成AIリスクを予防することを目的とした資格試験が「生成AIパスポート」だ。 小村氏は生成AIパスポートのメリットとしては、生成AIについて網羅できているかを自らが判断するのは難しいため、基礎的な知識や活用方法を「体系的に学ぶ」ことができる点や、生成AI活用のリスクを正しく把握することにより、“ビジネスでどこまで使っていいかOKラインがよくわからない”といった、「漠然とした不安を払拭」できる点があるという。 また、合格証書やオープンバッジにより、AIリテラシーを持った人材であることを「ステークホルダーにPRできる」こと、客観的な評価として「企業が適切な人事評価を行える」こともメリットだとした。 なお、生成AIパスポート試験は9月27日の講演の時点で3回実施されている(その後、10月に次の試験が実施された)。3回目までの受験者数は5629名で、合格者4322名が誕生したが、その内訳を見ると、さまざまな年代やさまざまな業種に広がっているとのことだ。 最後に小村氏は、AIリテラシーは、スキルを最大限発揮するための「運転免許証」のような役割だと説明。「生成AIのポテンシャルを引き出すも、リスクを招くも、人間しだい。人材育成が、企業の生成AI導入推進の鍵」だと語り、講演を締めくくった。
クラウド Watch,高橋 正和