「避難情報早くなった」、気象防災のスペシャリスト雇う自治体は効果実感も…活用全国に広がらず、なぜ?
昨年6月、台風2号からの暖かく湿った空気が前線に流れ込み、各地で大雨となった。自治体は豪雨対応を迫られることに。そんな中、千葉県野田市では6月2日夕方、元気象庁予報官の伊東譲司さん(76)が職員に警戒を促した。「土砂災害警戒情報がいつ出てもおかしくない」。これがスイッチとなり、野田市は避難所の開設準備を始めた。 【写真】能登半島地震でX(旧ツイッター)に投稿された虚偽の救助要請
翌日未明、実際に警戒情報が発表され、野田市は避難指示を出すことになった。 伊東さんのように、災害の恐れがあるときに首長の右腕となり、避難情報発表の必要性などを助言する人は「気象防災アドバイザー」と呼ばれる。半年以上にわたる研修を受講した気象予報士や気象庁OBで、国土交通大臣が認定したスペシャリストだ。野田市は伊東さんが加わったことで、災害への備えが変わったという。「避難情報の判断が早くなった」 だが、2023年度にアドバイザーを任用していたのは21都道府県の40団体にとどまっている。なぜ広がっていないのだろうか。(共同通信=米津柊哉) ※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽命を守る仕事ができるのがやりがい 伊東さんは、気象庁を退職後の2022年度に気象防災アドバイザーとして野田市に任用された。普段は公民館などに出向いて防災の話をし、いざ台風が近づくなどした際には登庁して市長を支える。「人の命を守る仕事ができる」のがやりがいだ。
昨年6月の台風2号では、伊東さんは専門資料を分析し、地元の気象台とも協議しながら対応を進め、予想を的中させた。市防災安全課の森下元博課長が「これまでよりスムーズに対応できた」と話すように、果たす役割は大きい。 ▽経験豊富で「説得力違う」 北海道で活動するアドバイザーの志田昌之さん(69)は、気象台長などを歴任した経験を持つ。今年6月、滝川市であった「災害時に福祉施設利用者の身をどう守るか」というテーマの研修会で、市や福祉施設の職員を前に講演した。 想定される水害や、大雨時に発表される情報を時系列で細やかに解説する。「長時間広い範囲で大雨になり、水位が上昇して堤防が決壊し、川から水があふれ出す」 参加した市職員は「経験のある人の話は説得力が違う。同じレベルでの説明は職員では難しい」と脱帽した様子だった。 ▽避難情報遅れきっかけに誕生 そもそも気象防災アドバイザーはなぜ生まれたのか。きっかけは2014年に広島市で77人が犠牲になった土砂災害だった。市の避難勧告(当時)発表が遅れた。