経営の神様が一発で見抜いた「絶対に勝負に負けるタイプ」の特徴
「アメーバ経営」「カンバン方式」などビジネスにおける成功事例は枚挙にいとまがない。では、うまくいった仕組みや経営理論をなぞれば、誰でも成功できるのかと言えば、話はそれほど簡単ではない。「経営の神様」稲盛和夫氏が一発で見抜いた「絶対に勝負に負けるタイプ」の特徴とは?(イトモス研究所所長 小倉健一) ● 「イノベーションのジレンマ」提唱者の教え 経営理論は、企業が成功を目指す上での囲碁や将棋の「定石」のような役割を果たしている。クレイトン・M・クリステンセンとマイケル・E・レイナーの「堅物経営者が経営理論にこだわる理由」(2003年)では、経営理論がどのように企業の意思決定を支えるかが詳しく論じられている。 論文中では、良い理論とは特定の行動がどのような結果をもたらすかを予測し、結果を導く背後の因果関係を明確にするものであるとされている。 論文著者のクリステンセンは2020年にこの世を去ったが、「イノベーションのジレンマ」の提唱者としてもよく知られている。 彼の研究は、破壊的イノベーションがどのように既存の大企業を揺るがし、新興企業が市場を制するかを解明することに焦点を当てている。企業が長期的な成功を収めるための理論と実践について深く探求した。 いかに優れた理論であっても、すべての状況で万能に機能するわけではない。理論が成功をもたらすには、企業の置かれた状況や環境に応じて適切に適用されることが必要であり、そうした適用力がなければ逆効果を招く場合もある。 理論は強力なツールであるが、それを使いこなすには環境や状況を見極める眼力が欠かせないのである。 「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏。
● なぜ「定石」が大失敗したのか? その稲盛氏の創業した京セラの創業当時のことが詳しく描かれた青山正次著「心の京セラ 二十年」(非売品)という書物がある。青山氏には、稲盛式経営が囲碁や将棋のように見えたという。 囲碁や将棋には「定石」というものがある。名人や達人たちが長年培った経験から、最善とされる手をまとめたものである。 すべての局面で定石が通用するわけではない。時には相手が意図的に定石を外すような奇策を仕掛けてくることもある。こうした場合、勝利を収めるには、新たな手を生み出す力が求められる。 のちに詳細を述べるが、囲碁や将棋の名人が定石に縛られないように、稲盛氏もまた固定観念や既存の方法論に縛られず、新しい価値を生み出していった。 さて、クリステンセンの論文では「ルーセント・テクノロジーズ」の大失敗が事例として記されている。 ルーセント・テクノロジーズは、電話やインターネットのシステムを作るための機械や技術を売る企業だった。1990年代、ルーセントはもっと成長して利益を出したいと考え、会社組織の仕組みを変えた。 当時、他の会社が「分権化」という方法を使って成功しているのを見て、ルーセントも同じ方法を試みようとした。「分権化」というのは、会社をいくつかの小さなチームに分けて、それぞれが独立して仕事を進められるようにする仕組みだ。 この方法を使うと、社員が自分たちで決定を下すことができるようになり、アイデアが出やすくなったり、早く動けるようになると言われていた。 ルーセントは、それまで3つの大きな部門で会社を動かしていたが、これを11の小さなチームに分けることにした。それぞれのチームが、自分たちでお客さんと話し合い、商品を売ったり、開発したりすることになった。 ところが、うまくいかなかった。ルーセントのお客さんは、大きな電話のネットワークや複雑なシステムを使っていた。そうしたシステムは、いろんな部品がきちんとつながって動く必要がある。